Last Updated on 2025年1月1日 by Moe Yamazaki
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現在EUが開発中の欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)によって、今後対象企業はその開示基準に基づき広範かつ詳細なサステナビリティ報告が求められます。また、EU域外の企業であっても、1社以上のEU企業のバリューチェーンの一部となっている場合、そのような企業からのサステナビリティ報告や監査・検証の要求が増えることが見込まれます。
本記事では、最新の草案に基づきESRSとは何か、ESRSの対象企業、企業の義務内容、企業が行っておくべきことなどについて解説します。
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ESRSとは何か
欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)とは、EUの欧州グリンディールの一環として制度化された企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の対象となる企業が報告書を作成する際に準拠しなければならない、サステナビリティ情報の開示要件を定める基準です。
対象企業は、その開示基準に基づいて、持続可能性への配慮がどのように事業に組み込まれているか、また、重要なESG影響、リスク、機会がどのように特定され、管理されているか、どのような指標と目標を持っているかに関する情報を開示することが求められます。
ESRSの開発状況
この基準は、2022年11月に欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)によって草案が欧州委員会(EC)に提出されました。その後、ECは2023年6月に、他のEU機関および加盟国との協議を経て、対象企業に義務付けられるサステナビリティ報告基準の最終案に近い草案を発表しました。
草案に対して4週間のパブリックコメントが募集され、2023年7月7日に締め切られました。EUは8月に最終基準を法律として採択する予定です。EU議会および理事会から異議がなかった場合、新しい基準は2024年1月1日から最初の適用企業に対して発効します。
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CSRD及びESRSの影響を受ける企業
以下の3つの基準のうち少なくとも2つを満たすすべての大企業(株式が上場しているかどうかにかかわらない)および上場企業(上場零細企業を除く)に適用され、非財務情報開示指令(NFRD)の5倍近くの約50,000社が対象になります。
a. 賃借対照表合計2000万ユーロ以超
b. 純売上高4000万ユーロ超
c. 事業年度における平均従業員数250人超
なお、実質的な活動を行う非EU企業(EU域内の売上高が1億5000万ユーロ以上)でEU域内に少なくとも1つの子会社(大規模または上場)または支店(純売上高4000万ユーロ以上)を持つ企業も対象となります。
つまり、非EU親会社のEU子会社は、非EU親会社が適用範囲に入る前にCSRDに基づく報告を開始することが求められる可能性があり、非EUグループのEU子会社が、非EU親会社が独自のCSRD報告を行う前に報告を準備すべき方法についての経過規定を遵守する必要があります。
非EU企業に対する開示要件
売上高が基準値を超え、EUに支店や子会社があるため、CSRDの適用範囲となる非EU企業には、修正された開示基準が適用される予定です。これらの基準は、2024年6月までに採用される予定です。これらの基準は、企業が直面する持続可能性のリスクや機会(財務的マテリアリティ)ではなく、企業が人や環境に与える影響に関する開示(インパクトマテリアリティ)に主に焦点を当てるものと予想されています。
しかし、EU域外の企業で、その証券がEUの規制する市場に上場しているために対象になっている企業は、対象になっているEU企業と同じ基準の適用を受けることになります。
CSRD及びESRSの主な特色
ダブルマテリアリティに基づく情報開示
企業は、ダブルマテリアリティに基づき、(i)企業活動が社会や環境に与える影響と、(ii)サステナビリティに関する事項が企業の業績や財務状況に与える影響の両方を報告することが求められます。
これらの情報の想定利用者としては、(i)投資家(ii)政府、消費者、従業員、投資家などが考えられます。
シングルマテリアリティの考え方に立つ気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)や国際サステナビリティ基準委員会(ISSB)の開示基準との大きな違いの一つです。そのため、CSRDの開示要件はそれらと比べ広範なものとなります。
マテリアリティ(重要性)の評価
企業は重要性評価を行い、開示すべき影響、リスク、機会を特定することが求められます。これは、マテリアリティを動態的なものとして捉え、社会環境の変化や最新の科学的根拠に基づき、マテリアリティを流動的に変化させるべきであるという考えに基づきます。
重要性を評価するうえで考慮するステークホルダーは、①企業やそのバリューチェーンから影響を受ける可能性がある人々と、②投資家などを含むサステナビリティー報告の利用者です。
ESRSの内容
ESRSは横断的な基準と、環境、社会、ガバナンスの4つから構成されています。
ESRS 1は、CSRDの下で企業がサステナビリティ情報を作成および開示する際に遵守する際の、原則や概念、全般的な要件を規定しています。そこには、マテリアリティの定義方法に関する説明が含まれます。
ESRS 2は、サステナビリティのトピック全体に適用される開示要件を定め、そこには戦略、ガバナンス、インパクト・リスクおよび機会の管理、指標と目標が含まれます。
トピック別基準は、ESRS 2を補完するよう、環境(ESRS E1-5)、社会(ESRS S1-4)、ガバナンス(ESRS G1)についてそれぞれの開示要求項目が定められています。
気候変動に関する開示要件
現在の草案では、主に「ガバナンス」、「戦略」、「影響、リスク、機会の管理」、「指標と目標」の4つの分野にわたる以下の情報の開示が要求されています。
ガバナンス分野
●インセンティブ制度における持続可能性関連の業績の統合
二酸化炭素排出量(GHG)削減目標が、管理・経営・監督機関のメンバーの実績評価に織り込まれていることを示すことが求められます。
戦略分野
●気候変動緩和のための移行計画
事業者の目標がパリ協定に沿った地球温暖化の1.5℃への抑制とどのように適合するかについての説明を含みます。移行計画を策定していない場合、移行計画を採用するかどうか、採用する場合、採用時期を示すことが求められています。
移行計画については「TCFD開示の更なる“レベルアップ”のために必要な「移行計画」について解説」をご覧ください。
●重要な影響、リスクおよび機会と戦略及びビジネスモデルとの相互関係
気候変動に関する自社の戦略やビジネスモデルのレジリエンスと、シナリオ分析による結果を含むレジリエンス分析の結果を説明することが求められます。
影響、リスク、機会の管理分野
●重要な気候関連の影響、リスク、機会を特定し評価するデューディリジェンスプロセスの記述
気候変動への影響(特に事業者のGHG排出量)、自社の事業やバリューチェーンにおける気候関連の物理的なリスク、自社の事業やバリューチェーンにおける気候関連の移行リスクと機会、またシナリオ分析をどのように用いたを説明することが求められます。
●気候変動の緩和と適応に関連する企業の方針
気候変動の緩和・適応策、エネルギー効率性の向上、再エネの導入などについてどのように企業が対応しているか示すことが求められます。
●気候変動対策に関連する行動とその実施に割り当てられた資源
気候関連の政策目的・目標を達成するためにとられ、計画されている主要な行動とその実施に割り当てられた資源について示すことが求められます。
指標と目標分野
●GHG排出量削減目標を含む気候変動の緩和と適応にかかわる目標
・GHG排出量削減目標を絶対値(CO2換算トンまたは基準年の排出量に対する割合)で開示し、意味があると判断した場合は原単位値で開示することが求められます。その際には、スコープ1,2,3を含み、GHG除去、カーボンクレジット、回避排出を含みません。
・少なくとも2030年目標値と可能であれば2050年の目標値を示すことが求められます。また、2030年以降はその後5年ごとにGHG排出削減目標の基準年、目標値を更新することが求められます。
・GHG排出量削減目標がパリ協定に沿った地球温暖化の1.5℃への抑制とどのように適合するかについての説明が求められます。
・シナリオ分析のもと、GHG排出量とGHG排出削減量の双方に与える可能性がある影響を簡潔に説明することが求められます。
・目標を達成するための脱炭素化の手段及びその全体的な定量的貢献を示すことが求められます。
●再生可能なエネルギー源と非再生可能なエネルギー源の情報を含む、企業のエネルギー消費と構成比
自社業務に関連する総エネルギー消費量の内訳を示すことが求められます。
●純収益あたりの総エネルギー消費量
気候変動への影響が大きい分野の活動に関連する純収益当たりの総エネルギー消費量を開示することが求められます。
●スコープ1、2、3のGHG総排出量
スコープ1、2、3のGHG排出量の算定方法については「スコープ1,2,3とは?各スコープの詳細から算定方法まで解説」をご覧ください。
●純収益あたりのGHG総排出量
●炭素クレジットを利用する緩和策によるGHG排出削減量・除去量
自社事業及び自社の上流・下流バリューチェーンからのGHG除去・貯留量、バリューチェーン外の炭素クレジットを財源とする気候変動緩和策からのGHG排出削減量または除去量を開示することが求められます。
●内部炭素価格制度を適用している場合、企業が採用した気候関連目標との関連
内部炭素価格制度を適用しているかどうか、適用している場合はそれらがどのように意思決定に寄与し、気候関連政策や目標の実施を動機づけるかを開示することが求められます。
●重要な物理的・移行的リスク及び気候関連の機会から生じる予想される財務上の影響
重要な物理的・移行的リスクの対象となる事業活動の資産及び純収入の金額と割合、並びに当該重要なリスクの対象となる資産及び純収入の関連項目又は財務諸表への照合を含みます。
企業の義務内容
ESRSにおける開示義務
現段階の草案においては、ESRS1およびESRS2で規定された開示要求について開示が義務となっています。そのほかの事項については、マテリアリティ(重要性)評価の結果で重要でないと判断した情報は開示を省略することができます。マテリアリティ評価は第三者による保証が求められます。
EFRAGの草案では、気候変動(ESRS E1)および自社の従業員(ESRS S1)に関する情報について開示が義務づけられていました。現在募集されているパブリックコメントの反映次第では、最終的に法律となる開示基準においてそれらの開示が義務づけられる可能性もあり、動向に要注目です。
保証の義務
企業は、開示について第三者による保証が義務付けられています。CSRDは、要求される保証のレベルについて限定的保証から合理的保証への段階的なアプローチを採用しています。
初めは、企業は限定的保証の取得のみを求められます。CSRDの提案によれば、限定的保証とは、「情報の重要な虚偽記載を示唆する事項が確認されていないことを否定的に確認する形で提供されるのが一般的である」とされています。
より高い基準である合理的保障について、現在その基準は定められていません。欧州委員会は、2028年までに監査人およびCSRDの対象企業にとって合理的保障が実行可能かどうかを評価し、現在財務諸表に求められている基準に類似した合理的保証の基準を採用する予定です。
サステナビリティ情報の開示形式
EUまたはEU上場企業は、CSRDに基づく情報を年次経営報告書の一節で報告することが求められます。EU域内の子会社または支店は、EFRAGが現在開発中の基準に従ってサステナビリティレポートを作成し、そのサステナビリティレポートを商業登記簿、または会社のウェブサイト上で公開することが求められます。
企業の管理・経営・監督機関の責任
CSRDによれば、企業の管理・経営・監督機関には、CSRDの要求事項に従いサステナビリティ情報が作成・開示されることを保証する「集団的責任」があります。CSRDはEU加盟国にその違反に対する民事責任を課すことを求めていませんが、加盟国はCSRDの国内実施規定に違反した場合に適用される罰則を定めることができます。今後、グリーンウオッシュの規制強化のため、そのような民事責任が問われる可能性があります。
ESRSのタイムライン
EUおよびEUに上場している特定の大企業について2024年1月1日から段階的に導入され、2028年1月1日までにすべての対象企業に適用される予定です。
CSRDは、以下のように段階的な発効を定めています。
対象企業 | 適用開始時期 | 報告書の発行 |
NFRDの適用対象企業※従業員500人以上のEU上場大企業、銀行機関、保険会社を含む | 2024年1月1日以降開始する事業年度 | 2025年から |
NFRD適用対象外の大企業 | 2025年1月1日以降開始する事業年度 | 2026年から |
上場中小企業(上場零細企業を除く) | 2026年1月1日以降開始する事業年度 | 2027年から※2028年までオプトアウト可能 |
EU域内に少なくとも1つの子会社(大規模または上場)または支店(純売上高4000万ユーロ以上)を持ち、EU域内の売上高が1億5000万ユーロ以上の非EU企業 | 2028年1月1日以降開始する事業年度 | 2029年から |
なお、現在の最新の草案では、従業員数750人未満の企業に対して、利用可能な追加の救済措置がとられます。
・最初の報告年度は、ESRS E1(気候変動)で規定されるスコープ3のGHG排出量およびESRS S1(自社の従業員)の開示要求事項の報告を省略可能
・最初の2年間は、ESRS E4(生物多様性と生態系)ESRS S2(バリューチェーンにおける労働者) ESRS S3(影響を受けるコミュニティ) ESRS S4(消費者と最終利用者)に関する報告を省略可能
今後の動向
さらにEUは、中小企業(SMEs)に特化した分野別基準を提案しており、2023年後半に公表される予定です。欧州のほとんどの企業は中小企業に分類されるため、大きな影響が見込まれます。中小企業基準は、大企業に適用される基準に比べて厳密さが緩和され、報告の負担が軽減されると予想されます。
また、業種に焦点を当てたセクター別の追加的な情報開示基準、対象となる非EU企業に適用される個別の情報開示基準が今後数年間にわたって段階的に公表される予定です。並行して、欧州サステナビリティ報告基準の適用を支援するガイドラインも公表される予定です。
企業が行うべきこと
CSRDおよびESRSは、EU企業及び一部の非EU企業に対し、広範かつ詳細なサステナビリティ報告を要求しているため、できるだけ早い段階での準備が必要となります。
①子会社や連結ループ全体がCSRDの要求事項の対象となるかを確認する
②対象となる場合、CSRD及びESRSを参照しいつ対象となるか、開示内容を確認する
③ESRSによって開示が求められる情報を収集するための計画を立て、実施体制を整備する
ことが推奨されます。
また、EU域内で活動していない企業であっても、1社以上のEU企業のバリューチェーンの一部となっている場合、そのようなEU企業からのサステナビリティ報告や監査・検証の要求が増える可能性があります。そのため、CSRDに基づく情報開示基準の最新の動向を追うこと、またその体制の整備が推奨されます。
まとめ
欧州サステナビリティ報告基準の要点
・2024年以降、EUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の対象となる企業に対し、ESRSに基づく報告が義務付けられます。
・対象企業は、ダブルマテリアリティに基づき気候変動などの持続可能性に関連する要因が自社の事業にどのような影響を与えるか、また自社のビジネスモデルが持続可能性にどのような影響を与えるかについての情報を開示することが求められます。
・正確な開示要件であるESRSは、8月に義務的な法律として成立予定です。
・今後、セクター別の追加的な情報開示基準、上場中小企業および非EU企業に適用される個別の情報開示基準が定められる予定です。
ESRSは、企業がグリーンウォッシングを避け、より実効性のあるサステナビリティ対策を行うための重要な羅針盤になりますが、多くの企業、特に初めて報告する企業にとっては大きな課題になりえます。そのため、企業はCSRDに基づく情報開示基準の最新の動向を追い、実施体制を整備することが推奨されます。
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この記事では、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)と企業に求められる対応について解説いたしました。最新の開示基準の理解、気候変動への取組みの加速の一助となりましたら幸いです。
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参考文献
[1] EU(2023)Draft act: Open European sustainability reporting standards
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