Last Updated on 2025年9月11日 by Moe Yamazaki

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温室効果ガス排出量削減は、サプライチェーン全体で取り組むべき課題として企業に大きな影響を与えています。特に、輸送手段や物流拠点でのエネルギー使用は、企業の排出削減戦略において不可欠な要素です。

この記事では、企業のサプライチェーンに関連するスコープ3カテゴリ4およびカテゴリ9について解説し、企業がどのように排出量削減に取り組むべきか、算出方法や実際の企業事例を交えて紹介します。

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スコープ3カテゴリ4・カテゴリ9とは

スコープ3カテゴリ4は、企業がサプライチェーン上で購入した製品やサービスの輸送に関連する間接排出量に焦点を当てています。

特に、上流の物流段階における温室効果ガス(GHG)の排出削減が中心課題です。輸送手段の選択、ルートの最適化、効率的な燃料消費といった物流プロセスの見直しは、企業がサプライヤーと協力して行う重要な取り組みです。

カテゴリ4の対象 調達に伴う物流

スコープ3カテゴリ4は、サプライヤーから自社に製品やサービスが輸送される際の排出量に加え、企業が費用を負担するあらゆる物流サービスが対象となります。これには、調達時の輸送だけでなく、横持ち輸送や出荷輸送も含まれます。

注意点として、荷主が自社の場合はスコープ1に計上され、サプライヤーが荷主の場合はスコープ3カテゴリ4に計上します。卸売業者や商社経由、メーカー直販での調達など、ケースに応じて整理することが重要です。

カテゴリ9の対象 出荷に伴う物流

カテゴリ9は、自社出荷後に消費者に届くまでの輸送を対象とします。ただし、荷主が自社であればスコープ1として計上され、購買先が荷主の場合のみカテゴリ9に含まれます。算定時には、費用負担と輸送責任の所在を明確にする必要があります。

また、自社から消費者に製品やサービスが輸送される際の排出量に加え、企業が費用を負担しないあらゆる物流サービスが対象となることにも注意しましょう。これには、出荷時の輸送だけでなく、所有権を引き渡した後の保管や販売に関連する物流も含まれます。

排出量の算定は、2種類あります。①自社から消費者までの輸送・流通を対象としたもの②自社が所有権を有さない車両・施設での小売や保管を対象としたものがあります。①の出荷物流の算定方法は、カテゴリ4と同様ですが、②の販売の算定方法は、販売チャネル別の排出原単位が適用され、そのチャネル別の製品出荷量のデータが必要になります。

たとえば、ディーラー販売では、自社グループ外の販売店の店舗かつ自社製品の販売分のみを計上します。

スコープ3カテゴリ4・カテゴリ9の算定方法

算定方法には、燃料ベース手法、距離ベース手法、消費ベース手法など、さまざまな手法があります。輸送費を単独で管理する帳票はほとんど存在しないため、実務では算定が難しい領域です。そのため、環境省が公表する標準シナリオや仮定値を活用し、保守的に算定する方法が一般的です。ここでは、輸送にかかる排出量算定として、以下の3つを紹介します。

1.トンキロ法
トンキロ法は、貨物の重量と輸送距離を掛け合わせて算出する方法です。輸送手段ごとに排出係数が異なり、トラック、船舶、航空機などのそれぞれに適用する排出原単位に基づき、排出量を算定します。この方法を利用する際は、根拠のない便宜的な数字ではなく厳格かつ保守的な前提を置く必要があることに注意しましょう。

2.燃料消費に伴う排出
燃料ベースの手法では、輸送に使用した燃料量を基に排出量を算定します。消費された燃料に対して、燃料の種類ごとのCO₂排出係数を掛け合わせ、輸送時に発生した排出量を導き出します。

3.物流拠点におけるエネルギー消費
物流拠点や販売拠点では、荷役、保管、冷却設備などのエネルギー消費により排出が発生します。ここでは、電力や燃料の使用量に対する排出係数を適用し、拠点でのエネルギー使用に伴う排出量を算定します。特に、冷媒漏洩が発生する場合、HFC(ハイドロフルオロカーボン)などの冷媒が大きな排出源となります。

サプライヤーエンゲージメントとスコープ3の関係

サプライヤーエンゲージメントとは

サプライヤーエンゲージメントとは、企業がサプライチェーン上の取引先と協力し、排出削減や気候変動対策を進めていく取り組みのことを指します。サプライヤーとの対話や協働を通じて、バリューチェーン全体でどのように排出削減を実現していくかが重視されます。

このサプライヤーエンゲージメントは、CDP(Carbon Disclosure Project) によって評価対象とされており、企業がどれだけ実効性のある行動を取っているかが問われます。つまり、単に自社の削減努力にとどまらず、サプライチェーン全体での協働姿勢がスコープ3の削減において重要視されています。

スコープ3カテゴリ4・9におけるサプライヤーエンゲージメント

カテゴリ4・9では、サプライヤーに自社の荷物分の排出量を求めることは現実的に困難です。混載輸送が一般的であり、自社専用の排出量を分離することはほぼ不可能です。カテゴリ9ではさらに、購買先負担分を切り分けて算出する必要があり、データの取得は極めて難易度が高いのが実情です。このため、エンゲージメント評価との関係は限定的であり、一次データ化は現実的ではなく、二次データや仮定ベース算定に依存することになります。

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スコープ3排出削減の企業事例

最後に、物流センターでのエネルギー使用量削減を通じて、スコープ3排出削減に取り組んでいるアスクル株式会社の事例を紹介します。

※環境省モデル企業事例集を元に作成
https://www.env.go.jp/content/000118181.pdf

会社事業概要 アスクル株式会社

アスクル株式会社は、物品調達や通信販売サービスを手掛ける企業で、GHG排出量の大部分が物流センターでの電力使用に起因しています。

特に、物流拠点における空調や冷却システムによるエネルギー消費が主な排出源となっています。

取り組み 空調負荷削減

アスクルは、以下の3つの重点施策を通じて排出削減に取り組んでいます。

  • 空調負荷削減
    物流センターにおける空調負荷の削減に注力し、冷房や暖房のエネルギー効率を改善。具体的には、効率的な空調設備の導入や、センター内の温度管理を徹底し、エネルギー使用量を削減する取り組みを行っています。
  • 電力使用の見直し
    物流拠点でのエネルギー使用を見直し、再生可能エネルギーの導入を進めています。これにより、GHG排出を抑えつつ、効率的な運営を実現しています。
  • 配送効率化
    輸送・配送においては、ルート最適化や低排出車両の導入など、物流の効率化を推進し、輸送段階でのCO₂排出削減を目指しています。

これらの取り組みにより、アスクルはサプライチェーン全体の持続可能性を高め、環境への影響を最小限に抑えた事業運営を実現しています。

まとめ

スコープ3カテゴリ4・カテゴリ9では、輸送・流通に関連する排出削減が焦点となります。サプライヤーからの調達に伴う排出量を正確に算定し、輸送手段やエネルギー消費を見直すことが重要です。

リクロマでは、ISSB(TCFD)開示、Scope1,2,3の算定など、幅広いサポートを提供しています。詳細な情報やご相談については、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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#サプライヤーエンゲージメント

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参考文献

・CDP2023 サプライヤーエンゲージメント評価 イントロダクション
https://cdn.cdp.net/cdp-production/comfy/cms/files/files/000/008/101/original/SER_Introduction_JPN_2023.pdf
・GHG プロトコル スコープ 3 排出量の算定技術ガイダンス
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/(J)-calculation_guidance.pdf
・環境省 スコープ3排出量の算定技術ガイダンス
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/(J)-calculation_guidance.pdf
・環境省 サプライチェーン排出量算定に関する説明会 Scope3~算定編
~https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/dms_trends/study_meeting_2020.pdf
・環境省 モデル企業事例集
https://www.env.go.jp/content/000118181.pd

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  • 大学では気候変動の経済学を専攻し、リクロマ株式会社には創業初期よりコンサルタントとして参画。 情報開示支援を中心に温室効果ガスの排出の算定や高度なシナリオ分析の業務を担う。

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