Last Updated on 2025年9月11日 by Moe Yamazaki
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スコープ3カテゴリ5「事業から出る廃棄物」は、企業が排出する廃棄物の処理過程に伴う温室効果ガス(GHG)排出量を対象としています。このカテゴリにおいて、企業は廃棄物の管理だけでなく、その削減策を実施することが求められます。
この記事では、スコープ3カテゴリ5の排出削減に向けた企業の取り組みや、サプライヤーエンゲージメント評価との関連について具体的な方法と事例を紹介します。
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スコープ3カテゴリ5とは
スコープ3は、Scope2に含まれないすべての間接排出(他社が排出源となるもの)を対象とし、発電や熱生成時の排出を除いた全15カテゴリの活動に細分化されています。
カテゴリ5では「事業から出る廃棄物」に焦点を当ており、企業が事業活動の過程で発生する廃棄物を第三者が処理する際の排出量を算定対象としています。
廃棄物には一般廃棄物と産業廃棄物があり、それぞれの処理方法に応じて排出量が異なります。企業が発生させる廃棄物の多くは産業廃棄物で、特に製造業や建設業では大量の廃棄物が発生します。これらの廃棄物は埋め立てや焼却、リサイクルといった処理方法に分類され、それぞれが温室効果ガス(GHG)の排出に影響を与えます。
企業は、自社で処理するのか、第三者に委託するのかによって、Scope1,2,3のどこに該当するかが変わります。カテゴリ5では、第三者によって処理される場合が該当します。
注意点として、カテゴリ5はスコープ3全体の中では排出量の比率が少ないことがほとんどなので、優先度は他のカテゴリに比べ低いことが多いです。
スコープ3カテゴリ5の算定範囲:事業から発生する廃棄物を第三者が処理する際の排出
カテゴリ5の算定範囲は、自社で発生させた廃棄物が第三者によって処理される段階での排出量を対象としています。
廃棄物の種類(一般廃棄物・産業廃棄物)や処理方法(焼却・埋立・リサイクル)ごとに排出量は大きく異なります。正確な算定のためには、省庁が定めるマニフェスト制度に基づき、適切な区分分けを行うことが重要です。
処理方法に応じた排出量の差異を正確に算定する必要がありますが、輸送段階での排出量は任意算定となっています。
また、有価物(廃棄物でありながら有償や無償で引き取られるもの)は除外されており、この点はGHGプロトコルに明記されていないものの、環境省ガイドラインに基づいた解釈に準じています。
この算定では、正確なデータ収集が求められ、企業は第三者との連携を通じて排出量を把握する必要があります。
スコープ3カテゴリ5の算定方法
廃棄物処理に伴う温室効果ガス排出量の算定には、活動量と排出係数を掛け合わせる手法が現実的とされています。具体的には次のような算定式が使用されます。
排出量 = 活動量(廃棄物の量) × 排出原単位(処理方法に応じた係数)
廃棄物処理方法ごとに排出原単位が異なるため、処理内容に応じて算定を行う必要があります。特に焼却・埋立・リサイクルでは結果に大きな差が出るため、算定に際しては区分の誤りがないよう十分に注意が求められます。
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サプライヤーエンゲージメントとスコープ3の関係
サプライヤーエンゲージメントとは、企業がサプライチェーン上の取引先と協力し、排出削減や気候変動対策を進めていく取り組みのことを指します。サプライヤーとの対話や協働を通じて、バリューチェーン全体でどのように排出削減を実現していくかが重視されます。
このサプライヤーエンゲージメントは、CDP(Carbon Disclosure Project) によって評価対象とされており、企業がどれだけ実効性のある行動を取っているかが問われます。つまり、単に自社の削減努力にとどまらず、サプライチェーン全体での協働姿勢がスコープ3の削減において重要視されているのです。
スコープ3の削減のためには、一次データの収集のみに留まらず、説明会や研修を通じてサプライヤーに協力を依頼し、得られたデータを基に目標を設定しましょう。必要に応じて削減施策を支援することが、スコープ3削減に不可欠です。
ただしカテゴリ5においては、サプライヤーから一次データを取得することは現実的には困難です。廃棄物処理業者は複数顧客の廃棄物をまとめて処理するため、自社分だけを抽出することはほぼ不可能だからです。
したがって、カテゴリ5での本質的な削減アクションは、サプライヤーへの依頼ではなく、廃棄物そのものを削減し、リサイクルを推進する取り組みになります。
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スコープ3排出削減の企業事例
最後に、スコープ3削減に向けて取り組んでいる企業として、株式会社フジクラを紹介します。
※環境省モデル企業事例集を元に作成
株式会社フジクラについて
フジクラは、電線や電子機器などを製造・販売する企業で、サプライチェーン全体における温室効果ガスの削減に積極的に取り組んでいます。
同社は、特にスコープ3に該当する排出削減に焦点を当てています。
取り組み
フジクラは、環境負荷を削減するための多角的なアプローチを展開しており、以下の取り組みを行っています。
・排出量が多い製品の見直し
排出量が多い製品について、持続可能な事業運営の観点から、その存続の可否を検討。高い排出量を持つ製品の削減や代替案を模索し、持続可能性を高めています。
・エコデザインの導入
製品開発の段階でエコデザインを導入し、ライフサイクル全体を通じて環境負荷を低減。具体的には、材料の効率的な使用や製造プロセスの見直しを行い、製品の資源効率を高めています。
・輸送・配送方法の改善
物流において、低排出車両の採用や効率的なルート設計を行い、配送過程での温室効果ガス排出を削減。これにより、製品の製造から配送まで、サプライチェーン全体での排出削減を実現しています。
これらの取り組みを通じて、フジクラは持続可能な事業運営を推進し、環境負荷の低減に成功しています。企業全体での温室効果ガス排出削減はもちろん、サプライチェーンを通じた責任ある行動が評価されています。
まとめ
スコープ3の排出量算定は、企業にとって非常に複雑で多岐にわたる課題です。特にサプライチェーン全体の排出量を把握し、削減計画を実行に移すには、膨大なデータ収集や計算が必要となります。
カテゴリ5はスコープ3全体に占める割合が大きくなることは少なく、精緻なデータ化よりも削減行動そのものが重要です。廃棄物の発生を抑制し、再利用・リサイクルを徹底することが、温室効果ガス削減につながります。
リクロマでは、ISSB(TCFD)開示、Scope1,2,3の算定など、幅広いサポートを提供しています。詳細な情報やご相談については、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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・Scope3の算出方法と削減方法をそれぞれ詳細に解説
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参考文献
・環境省 スコープ3排出量の算定技術ガイダンス
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/(J)-calculation_guidance.pdf
・CDP2023 サプライヤーエンゲージメント評価 イントロダクション
https://cdn.cdp.net/cdp-production/comfy/cms/files/files/000/008/101/original/SER_Introduction_JPN_2023.pdf
・環境省 サプライチェーン排出量算定に関する説明会 Scope3~算定編~
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/dms_trends/study_meeting_2020.pdf
・環境省モデル企業事例集
https://www.env.go.jp/content/000118181.pdf
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