Last Updated on 2024年6月21日 by Moe Yamazaki

気候変動対策の重要性が日々高まる中で、SBT認定の対応を進めている企業の担当者様も多いことと存じます。SBTの申請プロセスにおいて、複数の参照資料や英語での申請に困ってしまう担当者様もいるのではないでしょうか。

本記事では、SBTの基本概要やSBTネットゼロ目標の設定方法、注意点をわかりやすく解説します。

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SBTとは

SBTとは「Science Based Targets」(科学と整合した削減目標)の略称で、SBTイニシアチブ(以下SBTi)が作成する「科学的根拠に基づいた国際的な温室効果ガス削減目標」のことを指します。

この削減目標は、世界の平均気温の上昇を産業革命前の水準よりも1.5度未満に抑えることを目指しています。これらの数値は科学的な知見と整合しており、パリ協定において設定され、その後のCOP26においても合意されました。

2014年9月に4つの国際団体(CDP、WRI、WWF、UNGC)が運営主体となり、SBTiが設立されました。SBTiは企業に対して削減目標の設定を求めており、企業が設定した目標が基準に整合しているかを検証しています。

SBT取得企業の動向

日本におけるSBT取得企業は、2018年度以降増加傾向にあります。

世界全体をみても日本ではSBTの取得企業は比較的多く、2022年1月時点ではアメリカとイギリスに続いて第3位です。

下記の表における「コミット」とは、2年以内にSBTを設定しますという“宣言”を事務局にしただけの状態であり、実際には目標値は設定していない状態を指します。

この表に記載されている時期以降(2023年度以降)も毎週のようにコミットした企業がSBTi公式ホームページに掲載されていることから、今後もこの増加傾向は続くことが予想されます。

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企業によるSBTネットゼロ目標設定の必要性

企業がネットゼロを実現するためには、Scope1・2・3の温室効果ガス排出量をゼロにする、または1.5℃シナリオもしくはセクター軌道で国際基準のネットゼロ目標と整合した残余排出量の水準に達するまで削減をする必要があります。

具体的には、ネットゼロ目標時点での残余排出量、またはそれ以降における大気に放出される温室効果ガスすべてを中和することが求められます。

参考文献:SBT「企業ネットゼロ基準

SBTネットゼロ目標設定の基準

SBTネットゼロ目標設定の基準は、主に時間軸、排出量算定、バウンダリの3つに分かれます。

時間軸

企業は、2015 年以降で長期目標と短期目標で同じ基準年を定めることが理想です。

目標年では、短期目標は、SBTiに目標申請を提出した日から数え最短で5年、最長の場合で10年間における目標を定める必要があります。

長期目標では、目標年を2050年より前に定めなければならず、2050年になる前にネットゼロを達成する目標を設定しなければなりません。

発電事業に取り組む企業であれば、温室効果ガス排出用削減に関わる活動を対象とした長期目標は、ネットゼロを達成する年より前の目標年に設定する必要があります。

SBTiでの目標審査では、基準年から目標年、最新年から目標年の2つの削減率について審査が行われます。

排出量算定

短期目標と同じように、ネットゼロ目標に関しても親会社、もしくはグループレベルでSBTの取得が必要です。組織範囲では、親会社がSBT目標を申請する場合は、子会社を含むGHG算定が必要です。

報告会社・合弁事業・非連結を含む全世界の子会社の所有する比率が分かるリンク・図を提示するよう求められます。子会社などの判断基準に関しては、GHGプロトコルに従わなければなりません。

算定範囲では、Scope3における排出量の大小に関係なく、目標設定が必要です。算定での除外は認められていますが、算定不可な証明ができない場合、全ての排出量を算定する必要があります。

親会社に関しては、子会社を含めた関連する全ての排出量を求めなければなりません。算定では、Scope1・2において5%未満であれば除外可能です。しかし、そのためには総排出量の5%未満であることを証明しなければならないため、実質全て求める必要があります。

Scope3における算定では、10%未満であれば除外可能ですが、総排出量に対し10%未満であるという証明が困難なため、こちらも実質全て求めなければなりません。

バウンダリ

バウンダリ設定も基準の一つです。

Scope1・2・3におけるネットゼロ目標では、Scope1・2に関しては95%、Scope3に関しては90%以上の削減が必要です。

Scope3の目標は、90%以上の削減が求められ、短期目標に比べ厳しい基準が設定されています。

Scope3の目標設定は必須条件であり、10%以下であれば除外できます。Scope1・2の目標に関しては、全社的な排出量における5%以下であれば除外可能です。間接排出量に関しては、目標に含められず、区別し求めることが推奨されています。

SBTネットゼロ目標の注意点

ネットゼロ目標の注意点は、以下の3つです。

SBT短期目標が未取得の場合は取得後or同時に申請

ネットゼロ目標取得のためには、短期目標の取得が必須です。

短期目標とは、5〜10年先を目標に定めた1.5℃水準での温室効果ガス排出量を削減する目標です。

2020年以降に基準年を定める際は、scope1・2では2030年までに排出量を42%削減すること、scope3では最低でも25%の排出量を削減する必要があります。

ちなみに、2020年以前を基準年としている場合は、毎年Scope1・2における排出量を4.2%削減すること、Scope3における排出量を2.5%削減する必要があります。

短期目標での基準年と、長期目標での基準年は一致していなければなりません。

ネットゼロ目標の申請は、短期目標と同時に取得、あるいは短期目標取得後に申請することができます。

中和

短期・長期の目標を達成するための取り組みで温室効果ガス排出量を90%減らせた場合でも、ネットゼロが達成できたわけではありません。

残り10%分の温室効果ガス排出量を、炭素除去により相殺しなければならず、この相殺のことを中和といいます。

炭素除去とは、バイオマス発電におけるCO2回収や貯留、植林、バイオ炭の使用などにより、削減しきれなかった温室効果ガスを吸収し、実質ゼロにすることです。

BVCM

BVCMとは、バリューチェーン外において企業が取り組む、気候変動対策の緩和行動や投資のことです。

具体的には、素除去技術に向けた投資や、再エネ事業の展開、廃棄物最終処分場におけるメタン削減事業などがあります。

しかし、そのような活動すべてがBVCMに当てはまるわけではなく、考慮されるべきいくつかの要件や原則が示されます。

現在SBTiでは、BVCMのガイダンス作成が進められており、今後の検討次第では対象となる行動や基準が変わる可能性もあるため、常に意識しておきましょう。

セクター

セクター別ガイダンスの公開から、企業は遅くとも6か月経過した後に関しては、該当のセクター別手法、もしくはガイダンスで示されている目標設定の要求事項・最低限の温室効果ガス削減水準を必ず遵守する必要があります。

SBTネットゼロ目標の提出方法

ネットゼロ目標の提出資料、予約方法について解説します。

提出資料

企業は、SBTiが定めている目標設定プロセスに従い、科学的根拠に基づく標を設定します。

SBTiのコミットメントレターに署名し、ネットゼロ目標達成に向け取り組みます。

ネットゼロ目標を提出するためには、中小企業であればSME目標設定システムを使い、その他企業であればSBTi Target Validationブッキングシステムを使います。

参考文献:SBT「企業のネットゼロ基準

予約方法

ネットゼロの予約は、SBTi目標検証申請制度 (jotform.co)から予約可能です。

申請フォームに従い、必要事項を入力することで予約ができます。

参考文献:SBT「SBTi目標検証申請

まとめ

SBTとは、企業の環境問題への取り組みを示すための目標設定の一つであり、2015年に開催されたパリ協定により誕生したものです。

ネットゼロの状態を実現するために、企業はscope1・2・3の温室効果ガス排出量をゼロにする、または1.5℃シナリオもしくはセクター軌道で国際的な基準のネットゼロ目標と整合した残余排出量の水準に達するまで削減する必要があります。

企業の脱炭素経営を積極的に進めるサステナ担当者、SBTネットゼロ目標を検討している方は、申請をスムーズに行うためにも、SBTとSBTネットゼロ目標の概要や設定方法と注意点について十分理解しておくことが大切です。

#SBT

2024年2月以降の申請対応!

SBT申請方法の変更点について詳しく説明します。

参考文献

[1]環境省「SBTに参加する⽇本企業の認定数が更に増加
[2]SBT「企業ネットゼロ基準
[3]SBT「企業のネットゼロ基準
[4]SBT「企業のネットゼロ基準
[5]SBT「SBTi目標検証申請

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カーボンニュートラルやネットゼロ、TCFDと言った気候変動に関わる課題を抱える法人に対し、「社内勉強会」「コンサルティング」「気候変動の実働面のオペレーション支援/代行」を提供しています。

Author

  • 西家 光一

    2021年9月入社。国際経営学修士。大学在学中より国際人権NGOにて「ビジネスと人権」や「気候変動と人権」領域の活動を経験。卒業後はインフラ系研究財団へ客員研究員として参画し、気候変動適応策に関する研究へ従事する。企業と気候変動問題の関わりに強い関心を寄せ、リクロマ株式会社へ参画。

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