Last Updated on 2024年8月29日 by Moe Yamazaki

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2024年3月29日に、SSBJはサステナビリティ開示基準の公開草案を公表しました。

SSBJは日本国内でのサステナビリティ報告を統一する組織で、今後TCFDに代わり、企業がサステナビリティ開示をする上での基準となります。

本記事では草案における「戦略」項目を中心に解説していきます。

SSBJ公式の草案はこちらからご覧いただけます。
SSBJ サステナビリティ開示基準草案

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サステナビリティの新基準、ISSBについて包括的に理解する

SSBJの基本概要をポイントで抑える!
サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の基本概要 2027年適用開始を前に押さえるべきポイントを解説

SSBJ サステナビリティ開示基準の公開草案を公表

2024年3月29日に、SSBJはサステナビリティ開示基準の公開草案を公表しました。

  • サステナビリティ開示ユニバーサル基準公開草案「サステナビリティ開示基準の適用(案)」
  • サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第1号「一般開示基準(案)」
  • サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第2号「気候関連開示基準(案)」

2024年7月31日まで意見募集を行い、2025年3月末日までに草案を確定させる予定です。

公開された草案では、TCFD(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標)がS2項目で引き継がれており、構成は同じでしたがその内容と要求されるレベルが比較的上がっていました。

以下の記事ではSSBJの概要と草案の内容を、3Partに分けて詳しく解説しています。

サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の基本概要 2027年適用開始を前に押さえるべきポイントを解説
SSBJ サステナビリティ開示基準の草案を公表 「ガバナンス」「リスク管理」の要求事項まとめ【Part1】
SSBJ サステナビリティ開示基準の草案を公表 「戦略」の要求事項まとめ【Part2】
(本記事)

SSBJ サステナビリティ開示基準の草案を公表 「指標と目標」の要求事項まとめ【Part3】

おさらい:SSBJ(サステナビリティ基準委員会)とは

SSBJ(サステナビリティ基準委員会)とは、日本の組織で、企業のサステナビリティに関する情報開示の基準を策定する組織です。日本国内でのサステナビリティ報告の統一化と透明性の向上を目指しています。

ISSB(国際サステナビリティ基準委員会)とは、国際的な組織で、グローバルなサステナビリティ報告基準を設定し、日本のSSBJを含む各国の基準審議会を統括し指導する役割を担っています。

ISSB統合と適用開始へ

企業の非財務情報の開示を巡り、これまでTCFDやGRIなどの異なる基準が乱立し、企業や投資家に混乱を招いていました。

これを解消するため、2021年にISSBが設立され、2023年に気候変動に関するグローバル基準として承認されました。これにより企業は国際基準に基づいたサステナビリティ情報を提供できるようになり、投資家は企業の比較や検証が容易になりました。

ISSB基準は2024年度の年次報告書から適用され、日本ではSSBJが2024年3月末までに日本版基準を策定し、2025年3月末までに確定する予定です。3月期企業は2026年3月期の有価証券報告書からISSB基準に基づく開示が可能になります。

SSBJの概要についてはこちらの記事をご覧ください。
サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の基本概要 2027年適用開始を前に押さえるべきポイントを解説

SSBJ「 戦略」要求事項

今回の記事では、公開草案における「戦略」項目で押さえておくべきポイントやTCFDと異なる点について解説していきます。

SSBJの概要、「ガバナンス」「リスク管理」「指標と目標」については以下の記事をご覧ください。
概要⇒サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の基本概要 2027年適用開始を前に押さえるべきポイントを解説
ガバナンス、リスク管理⇒SSBJ サステナビリティ開示基準の草案を公表 「ガバナンス」「リスク管理」の要求事項まとめ【Part1】
指標と目標⇒SSBJ サステナビリティ開示基準の草案を公表 「指標と目標」の要求事項まとめ【Part3】

戦略 開示目的

草案における「戦略」項目の開示目的は、「サステナビリティ関連のリスク及び機会を管理する企業の戦略を理解できるようにすること」です。

この目的を達成するために、5項目の開示が要求されています。下記1-2〜1-5項目に影響を与えうる気候関連のリスクと機会の概要を1-1にて開示させているという建て付けです。

1-1 気候関連のリスク及び機会

ここでは、自社のビジネスモデル、各種戦略、キャッシュ・フロー、財政へのアクセスや資本コストに影響を及ぼすような気候変動関連のリスクと機会の開示が要求されています。

ここに記載するリスクと機会には時間軸を追加する必要があり、短期・中期・長期のスパンを定義した上で、その各時間軸におけるリスクと機会の項目の開示が求められます。

また、リスク及び機会の識別には、ISSBが公表する「産業別ガイダンス」に定義されている開示トピックを参照し、考慮する必要があります。

1-2 ビジネスモデル及びバリューチェーンに与える影響

リスクと機会の各項目が、現在、そして将来の自社のビジネスモデル及びバリューチェーンに与える影響の開示が要求されています。

バリューチェーンの開示に関しては、リスクと機会の各項目がバリューチェーンのどこに集中しているかの記述も求められています。

1-3 財務的影響

気候関連のリスクと機会が、自社の財務に与えた影響、また与えることが予想される影響も、短・中・長期のスパンで開示する必要があります。

定量的情報の開示とその免除についての説明は以下の通りです。定量的情報を開示しない場合には、その理由の説明が求められます。

財務的影響の開示において定量的情報を開示する場合、単一の数値又は数値の範囲を開示することができる。また、次のいずれかであると判断する場合には、定量的情報を開示する必要はない。

(1) 影響を区分して識別できない。

(2) 影響を見積るにあたり測定の不確実性の程度があまりにも高いために、もたらされ

る定量的情報が有用でない。

企業が定量的情報を提供するスキル、能力又は資源を有していない場合、予想される財務的影響の開示において定量的情報を提供する必要はない。

財務的影響の開示において定量的情報を提供する必要はないと判断した場合、次の事項を開示しなければならない。

(1) 定量的情報を提供していない理由

(2) 当該財務的影響に関する定性的情報

(3) 財務的影響の開示において定量的情報を提供する必要はないと判断した事項に関するサステナビリティ関連のリスク又は機会と、他のサステナビリティ関連のリスク又は機会及びその他の要因との複合的な財務的影響に関する定量的情報

1-4 戦略及び意思決定に与える影響

気候関連のリスクと機会が自社の各種戦略や意思決定に与える影響について開示が規定されています。

この各種戦略の中には、「移行計画」(脱炭素経済への移行に自社がどう適応していくかを示す計画)も含まれています。

移行計画については「脱炭素に向けた「移行計画」の開示基準と開示例を解説」をご覧ください。

また過去に開示した上記の計画に関する進捗を開示することも求められています。

1-5 レジリエンス

気候関連のリスクに対する戦略の気候レジリエンスに関する情報開示についての詳細が規定されています。SSBJはレジリエンスを「サステナビリティ関連のリスクから生じる不確実性に対応する企業の能力」と定義しており、草案ではこの情報を投資家らが客観的に理解できるように企業に開示を求めています。

レジリエンスの評価は、気候関連のシナリオ分析を用い、気候関連リスクと機会に焦点を当てて行う必要があります。

また、シナリオ分析は報告期間ごとに実施する必要は無いですが、レジリエンス評価は原則として報告期間ごとに実施しなければならないとされています。

ただし、当委員会が公表する他のテーマ別基準において具体的な定めが存在せず、かつレジリエンスの評価結果について、前報告期間における評価結果と大きく相違しないことが見込まれる場合、前報告期間におけるレジリエンスの評価結果に基づき開示を行うことができます。

TCFDの開示内容と異なる点

短・中・長期でのリスク及び機会を識別する点についてはTCFD提言と同様ですが、その識別には「産業別ガイダンス」を参照する必要がある点やシナリオ分析をレジリエンス評価に用いる必要がある点がSSBJ基準案では新たに求められます。

SSBJ サステナビリティ開示の対象企業と適用時期

金融庁は、今後サステナビリティ開示基準をプライム上場企業に適用する方針を示しており、公開草案についてこれらの企業を対象に意見を求めています。7月31日までの意見募集を経て、2025年3月末までに確定した基準が公開される見込みです。

また金融庁は金融審議会内に「サステナビリティ情報の信頼性確保と保証に関するワーキング・グループ」を新設し、対象企業と適用時期について議論しています。

ここでは以下のような提案が示されています。

出典)金融庁「第2回 金融審議会 サステナビリティ情報の開示と 保証のあり方に関するワーキング・グループ」

一般基準案は、公表日以後終了する年次報告期間に係るサステナビリティ関連財務開示から適用することができ、この場合、適用基準及び気候基準を同時に適用しなければならないとされています。

また記載場所としては、有価証券報告書に記載することが一般的であると想定されます。

・法令が有報での開示を禁止しているまたは、他のタイミングや記載場所を容認している場合は有報と異なるタイミングでの開示が認められる

・テーマ別基準で定めがない場合には関連する財務諸表と同じ報告期間を対象とする

SSBJ 経過措置

一般基準案の適用初年度の年次報告期間には、比較情報を開示しないことも可能であるとされています。さらに適用基準の経過措置を用いて、初年度に気候基準に従って気候関連のリスクおよび機会の情報のみを開示する場合、2年目の年次報告期間には、気候関連のリスクおよび機会以外のサステナビリティ関連のリスクおよび機会に関する比較情報を開示しないことも可能です。

出典)金融庁「第2回 金融審議会 サステナビリティ情報の開示と 保証のあり方に関するワーキング・グループ」

まとめ

TCFDの移行や新たな国際開示基準の発表、日本の対応(SSBJの設立や新しい開示基準の検討)など、気候変動対策の動きは常に変化しています。これらの変化に伴い、企業が気候変動対策を進める上で求められる対応も変化しています。

2025年3月に公開予定なので、今後もアップデートされる情報を注視していくことが大切です。リクロマでは今後情報が更新され次第、紹介していく予定です。

前述のとおり、TCFDの枠組みは現在でも有効です。未対応の企業は、まずTCFDに準拠した情報開示を準備することが重要です。すでに対応している企業は、現在の開示内容をもとに、IFRS S1やS2への対応を進めることが求められます。これには、機関投資家などのステークホルダーからの要請や、自社の経営戦略に沿った情報開示を進めることも含まれます。

#SSBJ

次の記事はこちら
SSBJ サステナビリティ開示基準の草案を公表 「指標と目標」の要求事項まとめ【Part3】

参考

[1] IFRS「2023 – Issued Standards」
[2] SBBJ「サステナビリティ基準委員会がサステナビリティ開示基準の公開草案を公表」
[3] SBBJ 「サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第 1 号 一般開示基準(案)」
[4] 金融庁「第2回 金融審議会 サステナビリティ情報の開示と 保証のあり方に関するワーキング・グループ」

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Author

  • 山下莉奈

    2022年10月入社。総合政策学部にて気候変動対策や社会企業論を学ぶ。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリによる国際的な組織での活動経験を持つ。北欧へ留学しサステナビリティと社会政策を学ぶ。

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