Last Updated on 2024年9月13日 by Moe Yamazaki
【気候変動関連用語がまるわかり!用語集はこちら】
水セキュリティは、適切な水資源の管理と保全を目指す取り組みであり、気候変動やビジネスリスクに密接に関わっています。
CDPでは企業の水資源管理に対する情報開示を促し、持続可能な水の利用を評価しています。
当記事では、水セキュリティの重要性とその具体的な対応策について解説します。
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CDP「水セキュリティ」とは?
CDPは投資家、企業、国家、地域、都市の活動やそれに伴う環境影響を評価・情報公開するプラットフォームを運営しており、多くの企業の情報開示の手段として利用されています、
具体的には気候変動、フォレスト(森林資源)、水資源の各部門に対して科学的・比較可能な数値や管理体制などについて質問が投げられ、企業の環境活動の情報開示がどの程度できているのかを調査しています。
このうち水資源においては、水による汚染や災害からの保護、安定した気候の中での生態系保全を前提とした上での、適切な量・良質な水へのアクセス権を確保することを目指す「水セキュリティ」の考え方が採用されています。また気候変動の緩和と適応戦略を取るには、気象パターンに大きく関わる水資源の安定性も重要な役割を担うということもあり、水セキュリティは近年、気候変動や生物多様性などとの連動についても注目されています。
もともとは気候変動に特化していたCDPも、水資源がもたらす持続可能性への影響を重要視するようになり、2013年より質問書が送付されるようになりました。
また2024年より気候変動、フォレスト(森林資源)、水資源の部門別にバラバラで質問書が送られてきたものが、一つに集約され、より各部門の関係性に注目されるようになっています。
CDPについて詳しい情報を知りたい方はこちら!
⇒CDPの全体像をわかりやすく解説
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CDP水セキュリティが重要視される背景
CDP水セキュリティが投資家や企業から重要性を増している理由としては、水リスクやその影響がビジネスにも大きな影響が出ていると考えられるためです。
例えば富山県の神岡鉱山はかつて日本有数の亜鉛や鉛、銀の産出地でしたが、汚染物質を流し続けた結果、四大公害病の1つであるイタイイタイ病を引き起こしてしまいます。
その結果、神岡鉱山の事業者は巨額の賠償金を支払うことになり、金属価格の低下などの悪条件も重なり2002年に閉山に追い込まれてしまいました。
このように水資源に対して不適切な処置を行うと、事業そのものが継続できなくなるリスクを抱えます。
そのため、水リスクへの対応・水資源の持続可能な管理が欠かせなくなっています。
水リスクに関する記事はこちら!
⇒水リスクにおける「評価ツール」とは?種類や実際の使用例も紹介
では水リスクにはどのようなものがあるのでしょうか?
WWFでは、水リスクを大きく分けて以下の3つに分類しています。
- 物理リスク:渇水、水質汚染、洪水など
- 規制リスク:条例などによる各種規制
- 評判リスク:文化および生物多様性の重要性、風評被害
日本やタイでは洪水リスクが取り上げられることが多く、逆にアフリカ地域では旱魃などの渇水リスクの方が重要視されるなど、地域・流域ごとに重要視されるリスクは異なります。
そのため企業が考慮する必要のある水リスクも、事業領域に応じて様々なものがあります。
ただどんな領域であっても重要なのが「流域全体での持続可能な水資源の管理」です。
河川などの水環境は源流にあたる森林・山岳地帯から最終的な到達点である湖や海まで大きなつながり(流域・集水域と呼ばれます)があり、このつながりを意識した上での活動が求められています。
またTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)では、自然の変化の要因として「気候変動」、「資源使用、資源補充」、「汚染、汚染除去」、「侵略的外来種の導入・除去」とともに「陸、淡水、海洋利用の変化」が挙げられており、水リスクの問題が自然環境・財務状況に与える影響を重要視しています。
TNFDでは環境資源に対しプラスとマイナス双方での評価を下しており、企業活動による水利用とその影響を数値指標として表せられるような仕組みを以下の図のようにまとめています。
CDP質問書と企業の対応策
CDP水セキュリティは環境問題の中でも水リスクに関して、以下のような質問書を記載することで、企業の環境活動を調査・評価を行っています。
以下にある1つの項目に当てはまる場合は、企業の調査対象となります。
- ウォーター分野で重要なセクターである
a. 署名金融機関からの回答要請の対象企業として選定
b. 署名金融機関からの回答要請ではないが対象企業として選定
- 回答要請機関(例:サプライチェーンメンバー)から、ウォーターの回答要請を受けている
- ウォーター分野の影響、依存、リスクと機会に関する自己評価で重要と特定
- ウォーター分野に回答することを自ら選択
※なお中小企業版が対象のSME版の場合は「2.」と「4.」のみが回答対象となります。
なお、前述したようにCDPの2024年版はこれまでの気候変動、フォレスト、水セキュリティの3つの質問書が1つに集約されています。
ただしテーマ別での質問項目は残っており、水セキュリティにおいては以下のモジュールの内容を解凍します。
- モジュール1:イントロダクション(報告範囲、バリューチェーンマッピングなど)
- モジュール2:依存・影響・リスクと機会の特定、評価お よび管理(時間軸の定義、評価及び管理のプロセス、優先地域、重大な影響の定義、汚染管理手順、鉱滓ダム管理手順)
- モジュール3:リスクと機会の開示(リスク開示、河川流域ごとのリスクエクスポージャー、規制遵守と罰金、自然災害関連の保険金支払いに関連する予想最大損失額、機会開示)
- モジュール4:ガバナンス(ガバナンス構造、環境課題の監督と能力、インセンティブ、環境方針、政策エンゲージメントなど)
- モジュール5:事業戦略(シナリオ分析、リスクと機会が戦略及び財務計画に及ぼす影響、バリューチェーン。エンゲージメントなど)
- モジュール6:環境パフォーマンス (連結アプローチ)
- モジュール9:環境パフォーマンスーウィーター(算定除外、全社的な水会計、施設レベルの水会計と第三者検証、水の効率性と原単位、製品・サービス、水量や水質などの水関連目標)
これらの質問に答えるためには水利用について、本業と同様事前に戦略立てを行って準備を進める必要があります。
具体的には以下のような項目に取り組んでおく必要があります。
- 排水や利用量、水質など適切な水利用を行うための定量的な目標設定
- 上記のための定量的データ取得
- データの中立性を保つための自社のリスク管理体制
- サプライチェーン全体を含めた管理体制
また今年から気候変動、フォレストなど他の分野と質問書が統合されたため、複数の環境課題に対する相互関係性を理解し、環境全般のリスク、影響、機会をより評価できることが求められているのも特筆される事項といっていいでしょう。
なお日本企業に関しては、2023年版の時点で1,207社に質問を送り43%を占める513社から回答を得ています。
業種によっても回答率は高く、とりわけ水リスクへの影響が大きい「素材」セクターの企業からは63%という高い回答率を得ていることは注目されます。
一方「ホスピタリティ」や「インフラ関連」については15%程度に留まるなど、一部業種ではかなり低い点に課題が残っています。
まとめ
CDP水セキュリティへの回答数は気候変動と比べると低いものの、異常気象や公害など注目度の高い話題も密接に絡むため、今後重要性が増す調査といえます。
素材やアパレル、発電、食品、飲料など水リスクの高いセクターに勤めている場合は対象となる可能性も高いため要注意といっていいでしょう。
ただ既に日本企業だけでも500社以上が回答しているという事実からも注目度は高く、高い評価を受ければ国内外における宣伝効果を得ることもできます。
質問所の回答条件に当てはまる場合は、水利用についての適切な目標設定や管理体制などを確立した上で、記載するようにしましょう。
#CDP
参考文献
[1] CDP 「CDP 水セキュリティレポート 2023」
[2] CDP 「CDP Full Corporate Scoring Methodology – Water Security」
[3] CDP 「2023年CDP 水セキュリティ質問書 導入編」
[4] WWFジャパン「企業の「水リスク」対応に必要な5つの視点」
[5]東京大学総合研究博物館「神岡鉱山からカミオカンデを見ると」
[6]NHK富山「「まだ終わっていない」 イタイイタイ病 “全面解決”10年 被害者団体の当時の代表に聞く10年の思い」
[7]TNFD 「自然関連財務情報開示タスクフォースの提言」
[8] CDP「CDP2024コーポレート質問書概要」
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