Last Updated on 2025年3月8日 by Sayaka Kudo
【気候変動関連用語がまるわかり!用語集はこちら】
CDP(Carbon Disclosure Project)は気候変動のほかに、森林資源、水資源の各分野に対して管理体制や経営戦略などについて質問書を作成しており、数多くの企業がサステナビリティ情報開示の手段として活用しています。CDP水セキュリティは、人間の生活や社会経済発展を維持する基盤のインフラである水資源の開示枠組みであり、水資源に係る事業活動をする企業は開示を求められています。本コラムでは、水セキュリティについて解説します。
<サマリー>
・水セキュリティとは、水を媒介とする汚染や水関連の災害から水資源を保護し、かつ、生態系を保全するために良質で適量の水資源を持続的に入手できること
・水リスクは、物理的リスクや規制リスク、評判リスクを通じて事業活動に影響を与える可能性がある
・CDP水セキュリティ質問書は気候変動とフォレストと統合されているが、水リスクの高い企業はテーマ別のモジュールに回答する必要がある
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CDP「水セキュリティ」とは?
「水セキュリティ(水の安全保障)」とは、生活、人間の福利、社会経済的発展を維持し、水を媒介する汚染や水関連の災害からの保護、安定した気候の中での生態系保全を前提とした上で、平和で政治的安定性のある気候の中で生態系を保全するため、適切な量・良質な水へのアクセスがあることを指します[2]。
CDPは、もともとは気候変動に特化していましたが、気候変動の緩和と適応戦略を取るには、気象パターンに大きく関わる水資源の安定性も重要な役割を担うということもあり、2013年より質問書が送付されるようになりました。
CDP水セキュリティは近年、気候変動や生物多様性などとの関連性についても注目されています。2024年より気候変動、フォレスト(森林資源)、水資源の部門別にバラバラで質問書が送られてきたものが、一つに集約され、より各部門の統合に注目されるようになっています。
CDPについて詳しい情報を知りたい方はこちら!
⇒CDPの全体像をわかりやすく解説
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水リスクが事業活動に与える影響
CDP水セキュリティが投資家や企業から重要性を増している背景としては、水リスクやその影響がビジネスにも大きな影響が出ていると考えられています。
例えば、富山県の神岡鉱山はかつて日本有数の亜鉛や鉛、銀の産出地でしたが、汚染物質を流し続けた結果、四大公害病の1つであるイタイイタイ病を引き起こしてしまいます。その結果、神岡鉱山の事業者は巨額の賠償金を支払うことになり、金属価格の低下などの悪条件も重なり2002年に閉山に追い込まれてしまいました。
このように水資源に対して不適切な処置を行うと、事業そのものが継続できなくなるリスクを抱えます。
水リスクに関する記事はこちら!
⇒水リスクにおける「評価ツール」とは?種類や実際の使用例も紹介
水リスクの3つの種類
WWFでは、水リスクを大きく分けて以下の3つに分類しています。
- 物理リスク:渇水、水質汚染、洪水など
- 規制リスク:条例などによる各種規制
- 評判リスク:文化および生物多様性の重要性、風評被害
日本やタイでは洪水リスクが取り上げられることが多く、逆にアフリカ地域では旱魃などの渇水リスクの方が重要視されるなど、地域・流域ごとに重要視されるリスクは異なります。そのため企業が考慮する必要のある水リスクも、事業領域に応じて様々なものがあります。
ただどんな領域であっても重要なのは、流域全体での持続可能な水資源の管理です。河川などの水環境は源流にあたる森林・山岳地帯から最終的な到達点である湖や海まで大きなつながり(流域・集水域と呼ばれます)があり、このつながりを意識した上での活動が求められています。
CDP「水セキュリティ」の質問書
対象企業
以下の項目に当てはまる企業は、調査対象となります。※なお中小企業版が対象のSME版の場合は「2」と「4」のみが回答対象となります。
- ウォーター分野で重要なセクターである
- 署名金融機関からの回答要請の対象企業として選定
- 署名金融機関からの回答要請ではないが対象企業として選定
2. 回答要請機関(例:サプライチェーンメンバー)から、ウォーターの回答要請を受けている
3. ウォーター分野の影響、依存、リスクと機会に関する自己評価で重要と特定
4. ウォーター分野に回答することを自ら選択
水セキュリティのモジュール
前述したようにCDPの2024年版はこれまでの気候変動、フォレスト、水セキュリティの3つの質問書が1つに集約されています。ただしテーマ別での質問項目は残っており、水セキュリティにおいては以下のモジュールに回答する必要があります。
モジュール | 項目 | 詳細 |
モジュール1 | イントロダクション | 報告範囲、バリューチェーンマッピングなど |
モジュール2 | 依存・影響・リスクと機会の特定、評価および管理 | 時間軸の定義、評価及び管理のプロセス、優先地域、重大な影響の定義、汚染管理手順、鉱滓ダム管理手順 |
モジュール3 | リスクと機会の開示 | リスク開示、河川流域ごとのリスクエクスポージャー、規制遵守と罰金、自然災害関連の保険金支払いに関連する予想最大損失額、機会開示 |
モジュール4 | ガバナンス | ガバナンス構造、環境課題の監督と能力、インセンティブ、環境方針、政策エンゲージメントなど |
モジュール5 | 事業戦略 | シナリオ分析、リスクと機会が戦略及び財務計画に及ぼす影響、バリューチェーン、エンゲージメントなど |
モジュール6 | 環境パフォーマンス | 連結アプローチ |
モジュール9 | 環境パフォーマンスーウィーター | 算定除外、全社的な水会計、施設レベルの水会計と第三者検証、水の効率性と原単位、製品・サービス、水量や水質などの水関連目標 |
これらの質問に答えるためには水利用について、本業と同様事前に戦略立てを行って準備を進める必要があります。
具体的には以下のような項目に取り組んでおく必要があります。
- 排水や利用量、水質など適切な水利用を行うための定量的な目標設定
- 上記のための定量的データ取得
- データの中立性を保つための自社のリスク管理体制
- サプライチェーン全体を含めた管理体制
また、2024年から気候変動、フォレストなど他の分野と質問書が統合されたため、複数の環境課題に対する相互関係性を理解し、環境全般のリスク、影響、機会をより評価できることが求められます。
水セキュリティにおける日本企業の回答実態
なお日本企業に関しては、2023年版の時点で1,207社に質問を送り43%を占める513社から回答を得ています。

業種によっても回答率は高く、とりわけ水リスクへの影響が大きい「素材」セクターの企業からは63%という高い回答率を得ていることは注目されます。一方「ホスピタリティ」や「インフラ関連」については15%程度に留まるなど、一部業種ではかなり低い点に課題が残っています。
TNFDにおける水リスクの位置付け
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)においても、自然の変化の要因として「気候変動」、「資源使用、資源補充」、「汚染、汚染除去」、「侵略的外来種の導入・除去」とともに「陸、淡水、海洋利用の変化」が挙げられており、水リスクの問題が自然環境・財務状況に与える影響を重要視しています。
TNFDでは環境資源に対しプラスとマイナス双方での評価を下しており、企業活動による水利用とその影響を数値指標として表せられるような仕組みを以下の図のようにまとめています。

出所:TNFD 「自然関連財務情報開示タスクフォースの提言」
まとめ
本コラムでは、企業の水リスク管理について、CDP水セキュリティの観点から対象企業やモジュールに焦点を当てて解説しました。CDP 水セキュリティへの回答数は気候変動と比べると低いものの、異常気象や公害など注目度の高い話題も密接に絡むため、今後重要性が増す調査といえます。特に、素材やアパレル、発電、食品、飲料など水リスクの高いセクターは、水リスクへの対応が持続可能な経営のために重要になります。
#CDP
CDP(気候変動質問書)とは?
【このホワイトペーパーに含まれる内容】
・CDPの概要やその取り組みについて説明
・気候変動質問書の基本情報や回答するメリット、デメリットを詳細に解説
・気候変動質問書のスコアリング基準と回答スケジュールについてわかりやすく解説

参考文献
[1]CDP 「CDP Full Corporate Scoring Methodology – Water Security」2024年
[2]CDP 「2023年CDP 水セキュリティ質問書 導入編」2023年
[3]CDP「CDP2024コーポレート質問書概要」2024年
[4]CDP 「CDP 水セキュリティレポート 2023」2023年
[5]TNFD 「自然関連財務情報開示タスクフォースの提言」2023年
[6]WWFジャパン「企業の「水リスク」対応に必要な5つの視点」2022年
[7]富山県「イタイイタイ病とは」2021年
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