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企業が環境情報を開示する際、気候変動・水セキュリティと並んで近年重要度が高まっているテーマが「森林(フォレスト)」です。かつて森林は環境側面のひとつという位置付けでしたが、今や企業活動の財務リスクやサプライチェーン戦略の核心となっています。

本稿では、2026年度の CDP質問書(フォレスト)の回答 に向けて、回答の意義、世界的な動向、2026年度の変更点、そして準備すべきデータ・情報をわかりやすく解説します。

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なぜ森林開示が企業にとって重要なのか

    企業が森林関連の開示に取り組む背景には、単なる環境配慮にとどまらず、事業の継続性や財務健全性、グローバル市場における規制対応といった、極めて現実的な要請があります。

    たとえば、CDPの2025年レポートによると、企業が自覚している森林関連リスクの多くは十分に金額化されておらず、その結果、潜在的な財務影響額は2,790億ドルに上る可能性があると指摘されています。これは、企業がすでにCDPで報告している森林関連リスクの約3.6倍に相当します。森林リスクが過小評価されている現状は、将来的に企業の損益や経営戦略に大きな影響を及ぼしかねません。

    CDPの分析では、森林関連リスクは洪水や干ばつといった物理的リスクに加え、規制強化や市場変化に伴う移行リスクへと広がっていることが示されています。特に、認証済み原材料の供給不足や原材料価格の上昇といった市場ベースの移行リスクが多く報告されており、近年のカカオ価格高騰はその象徴的な例です。このように森林リスクは、サプライチェーンの上流だけでなく、原材料コストや収益性など下流の事業活動にも直接影響を及ぼす経営課題として顕在化し始めています。

    こうした背景には、企業活動と森林減少の密接な関係があります。世界の森林破壊の最大の要因は「農業のための土地転用」とされ、熱帯林減少の約70%は商業的農業によるものとされています。多くの企業は、直接的でなくともサプライチェーンを通じて森林減少と関わっており、その関係性を可視化し、透明性を高めることが強く求められています。

    森林開示はどのような企業が取り組むべきか

      では、CDPの森林設問書は、どのような企業が回答すべきものなのでしょうか。結論からいえば、森林破壊と関係の深いコモディティ(=原材料)を扱う、またはサプライチェーンを通じてそれらに関与している企業は、規模や業種を問わず対応を検討すべきテーマとなっています。

      森林破壊に関連する商業的農地の約6割を占めるのが、牛肉、大豆、パーム油、木材、カカオ、コーヒー、天然ゴムの7つの「コモディティ」と呼ばれる農産物です。こうしたコモディティは、食品や日用品、アパレル、自動車部品、建材など多くの製品に使用されており、自社で直接生産していなくても、調達や製品への組み込みを通じて森林リスクと関係しているケースは少なくありません。

      また、投資家や大手取引先からCDPを通じた森林テーマの開示を求められている企業は、回答が実質的に必須となります。特に、グローバル企業やCDPサプライチェーンプログラムに参加する企業と取引のある場合は、回答の有無が取引継続や評価に影響する可能性があります。

      さらに、自社のリスク評価において森林関連の課題が識別されている場合や、将来的な規制強化・投資家要請を見据えて自主的にリスク管理と情報開示を進めたい企業にとっても、森林設問書は有効なツールとなります。

      このように、CDPの森林開示は「一部の企業だけの対応事項」ではなく、サプライチェーンを持つ多くの企業にとって、自社の立ち位置を確認し、リスクを可視化するための重要なステップといえるでしょう。

      世界の潮流:フォレストは経営リスクの中心へ

        森林リスクへの注目は、国際金融や規制の潮流により高まってきました。

        まず、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が2023年に公表した国際的な開示枠組みにより、自然への依存・影響が財務リスクとして評価される時代になりました。TNFDの枠組みでは、森林資源の喪失や土地利用転換が企業のバリューチェーンや財務指標にどのような影響を与えるかを定量的にも定性的にも開示することが推奨されています。

        さらに、世界的な森林規制の動きもあります。例えば、EU Deforestation Regulation(EUDR) は欧州に輸出する企業に対して、森林破壊や土地転換のないコモディティ調達の証明を義務付けています。この規制は、地理情報やトレーサビリティを明確にしなければ遵守できない内容であり、森林関連の透明性を単なる環境配慮ではなく、市場アクセス条件のひとつに変えています。

        つまり、森林開示は環境配慮という抽象的な価値から、財務リスク管理や規制対応という実務的な価値へと転換しているのです

        CDP2026 森林設問書のポイント

          CDPは世界で最も広く利用される企業向け環境情報開示プラットフォームのひとつであり、投資家やサプライチェーン・パートナーからの情報開示要請として活用されています。2026年に向けて森林関連の設問は、より実務の深さと網羅性が求められる方向に整理されています。

          2025年版までのCDP森林モジュールは、森林破壊や転換の状況を定量的に回答するためのガイダンスが中心でした。その中では、バリューチェーンのマッピングやトレーサビリティ(生産ユニットや調達地域の追跡)、DF/DCF(Deforestation- and Conversion-Free)の判定方法といった実務的な内容が詳述されています。

          2026年に向けては、これらを基盤としつつ、森林関連のスコアリング対象コモディティが7品目に完全対応する拡張や、統合された自然開示枠組みの中で回答する構造への変化が進んでいます。

          また、中小企業向けの質問票でも森林関連項目が導入され、バリューチェーン全体での情報収集対応が不可欠になっています。

          企業が今から準備すべきデータと情報

            では、具体的に何を準備すればよいのでしょうか。ここでは森林関連設問に向けた、実務的な準備ポイントを整理します。

            ■ バリューチェーンマッピング

            まず 自社のバリューチェーンをどこまで把握できているかを明確にしておくことが欠かせません。CDPモジュール1では、サプライチェーン構造の透明性を高めるための「バリューチェーンマッピング」の情報が求められます。企業は、自社が取り扱うコモディティについて、以下のような基礎情報を整理しておく必要があります。

            • 自社が該当するコモディティを生産しているのか、それとも調達しているのか
            • どのバリューチェーン段階(Tier1、Tier2、Tier3…)に位置するのか
            • 調達しているコモディティの総量(Mt)
            • 事業活動における重要性(そのコモディティが調達額全体に占める割合、売上に対する依存度など)

            これはトレーサビリティ情報とともにDF/DCFの判定やリスク管理の基盤となる部分です。

            ■ 依存と影響、リスクと機会の特定と把握

            サプライチェーン情報の把握に加えて、自社の事業が森林に対してどのような「依存」と「影響」を持っているのかを把握しておく必要があります。CDPでは、これらの点についてモジュール2(依存・影響)および モジュール3(リスク・機会)で詳細な回答を求めています。

            ここで重要になるのが、TNFD(自然関連財務情報開示)の推奨する LEAPアプローチ(Locate・Evaluate・Assess・Prepare) です。これは、企業が自然資本にどの程度依存し、どのような影響を及ぼし、どのようなリスクと機会が生じるかを体系的に把握するフレームワークです。LEAPを活用すれば、森林リスクがサプライチェーンのどの段階で生じやすいのか、どの地域が影響を受けやすいのか、といった点をロジカルに整理することができるようになります。

            特に森林関連コモディティを扱う企業では、気候変動による生産地の不安定化、原材料価格の高騰、規制強化による市場アクセスリスク、あるいは逆にサステナブル調達への転換による機会創出など、複数の要素が事業に影響を与えます。これらをLEAPアプローチで事前に洗い出し、自社としてどのような対応方針や中長期戦略を持つのかを準備しておくことが、必要です。

            ■ DF/DCF判定に必要な基礎情報

            企業は該当するコモディティごとに、森林破壊ゼロ / 土地転換ゼロ(DF/DCF) の方針と、基準となる「カットオフ日」(基準日) を明確に定める※必要があります。これは自社のサプライチェーンにおける森林破壊の有無を評価するための基準点となります。

            ※過去に起きた森林破壊や土地転換を、どこまでさかのぼって確認するか設定すること。

            ■ トレーサビリティデータ

            森林設問書では、原材料の生産地や調達先がどこまで特定できているかが重要になります。生産ユニット、調達地域、国レベルまでのトレーサビリティ情報や、それらが不明の場合の割合を整理しておくことが必須です。

            ■ 認証情報とモニタリングデータ

            森林破壊ゼロ、転換ゼロであると評価、判定する手法は、主に以下の3つが挙げられる。

            1. 第三者認証:DF/DCFの完全保証を提供するスキームによる信頼性のある第三者認証の取得
            2. 生産単位モニタリング+検証:衛星データを利用した生産ユニットの状態監視、および検証
            3. 調達地域モニタリング+検証:調達地域の森林カバー変化データなどの監視、および検証

            上記の取り組みがある場合、DF/DCF判定の根拠となる説明可能な資料を揃えることが求められます。

            ■ 現状と進捗

            企業は、上記以外にも現状と進捗の報告のために以下の設問への回答が求められます。

            • DCF保証の取得に向けた対策、行動、措置
            • 土地関連排出量の算定
            • 森林関連法規制の遵守状況
            • ランドスケープイニシアチブへのエンゲージメント有無
            • 外部イニシアチブとの協働
            • 生態系の復元と長期保護プロジェクトの詳細

            企業の包括的な取り組みが、評価を左右します。


            おわりに:

            森林設問書への対応は、企業のリスク管理・戦略立案・市場競争力強化に直結する取り組みです。2030年のサステナビリティ戦略を描くうえでも、森林関連データの整備と論理的な説明は避けて通れません。適切に対応することで、企業は以下のようなメリットを享受できます。

            • 投資家からの評価向上:情報開示の透明性が高くなることで投資判断における信頼性が増し、資本調達面の評価につながる。
            • サプライチェーンのリスク管理強化:森林破壊リスクが可視化されることで、価格変動や事業停止リスクへの備えとなる。
            • 規制対応力の向上:EUDRなどの法令に先んじた体制構築は、輸出・市場参入戦略での優位性に直結する。
            • ESG評価およびブランド価値の向上:森林保全に対する積極的な取り組みは、顧客・投資家・社会からの評価を高める。

            CDP2026は、これまで以上に森林リスクに関する透明性と対応の一貫性が求められる回答設計になると考えられます。開示意思のある企業は、今から森林領域の体制整備とデータ基盤の構築を進めることが、企業価値の向上につながる大きな一歩になります。

            参考文献

            [1]CDP 「Full Corporate Questionnaire April 2025 Modules 8-13」(2025年4月 )https://assets.ctfassets.net/v7uy4j80khf8/3od5x6nkcnaOx9psMV2YBu/c64b1a8a8d5c5f86c9ff630d7f28bd35/Full_Corporate_Questionnaire_Modules_8-13.pdf
            [2]CDP「Reporting progress on Deforestationand Conversion-free value chains」(2025年5月)https://cdn.cdp.net/cdp-production/cms/guidance_docs/pdfs/000/004/231/original/CDP_technical_note_-_forests_implementation.pdf?1749566997
            [3]CDP「Corporate disclosure: Preparing for CDP’s 2026 disclosure cycle」(2025年11月)
            https://assets.ctfassets.net/v7uy4j80khf8/5bWYKcRijvZCBGdvymhOir/33cf862c06c6ab21807ec817dafea9b9/Preparing_for_Disclosure_Cycle_2026.pdf
            [4]CDP「Blind Spots on theBalance Sheet」p.3(2025年11月)https://images.ctfassets.net/v7uy4j80khf8/3A3xF5B76pwzHec4CuPm2i/a0efc4daf5041e09c0eb8dca8ab8d765/Uncovering_Financial_Implications_of_Deforestation.pdf
            [5]European Commission「Regulation on Deforestation-free Products」https://environment.ec.europa.eu/topics/forests/deforestation/regulation-deforestation-free-products_en
            [6]WWF 「ネイチャーポジティブ実践に向けた手引き-「森林破壊・土地転換ゼロ」を事例に-」(2022年 )https://www.wwf.or.jp/activities/data/20221222forest01.pdf

            お役立ち資料

            CDP(気候変動質問書)とは?

            【このホワイトペーパーに含まれる内容
            ・CDPの概要やその取り組みについて説明
            ・気候変動質問書の基本情報や回答するメリット、デメリットを詳細に解説
            ・気候変動質問書のスコアリング基準と回答スケジュールについてわかりやすく解説

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            Author

            • 加藤 貴大

              リクロマ株式会社代表。2017年5月より、PwC Mexico International Business Centreにて日系企業への法人営業 / アドバイザリー業務に携わる。2018年の帰国後、一般社団法人CDP Worldwide-Japanを経て、リクロマ株式会社(旧:株式会社ウィズアクア)を創業。大学在学中にはNPO法人AIESEC in Japanの事務局次長として1,700人を擁する団体の組織開発に従事。1992年生まれ。開成中・高等学校、慶應義塾大学経済学部卒業。

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