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CDPは、企業の環境情報開示を促進する国際的なプラットフォームであり、従来の気候変動に加えて「水セキュリティ」「森林」の分野でも質問書を展開しています。
2024年には、水セキュリティ質問書の対象企業が拡大し、プライム市場に上場する水リスクの高いセクターが新たに要請対象に含まれました。
水リスクは、世界的に水需要が増加する一方、供給が気候変動や干ばつの影響で減少しており、2030年までに世界の水供給は56%不足する見込みとされています。これらの背景から、CDP水セキュリティ・森林質問書は「自然資本リスクへの対応度を示す指標」としての重要性を高めています。
本記事では、「なぜ自社に要請が来たのか」という疑問にお答えするために、回答が必要とされる背景やスコアリング対象の選定基準、そして担当者がまず押さえるべき実務のポイントについて整理・解説します。
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CDP水セキュリティ・森林への回答が求められる背景
水セキュリティや森林への回答が求められる背景には、投資家が水・森林を「重要な財務リスク」として捉えている点があります。水不足・水質劣化・洪水、森林減少はいずれも、企業の収益、操業継続、評判、規制対応に直結し得るためです。
水リスクが環境課題に与える影響
水は環境だけでなく、社会的にも経済的にも大きな影響力を持つ要素です。
実際に日系企業も水の影響を受けており、たとえば2021年の干ばつではカナダ産菜種が大きな影響を受け、輸出量が減少しました。
その結果、世界的な需要増も重なり国際相場が約2倍に高騰し、日本の油脂メーカーも価格改定を強いられました。
また2020年〜2021年の干ばつでは半導体生産が影響を受け、2011年にはインドシナ半島の豪雨・洪水でタイの工業団地が被害を受けるなど、水の影響はすでに広くビジネスに及び始めています。
水は環境という側面だけでなく、社会的にも経済的にも大きな影響力を持つ要素です。

企業の「水リスク」対応に必要な5つの視点
森林が環境課題に与える影響
森林関連課題に関する潮流は、すでに国際社会のコミットメントとして動いています。
COP26で「2030年までに森林の喪失と土地の劣化を止め、逆転させる」宣言が採択され、日本を含む多数国が署名したことが示されています。
さらに欧州では森林破壊と関連する商品のデューデリジェンスを求める規制の動きがあり、英国・フランス・日本でも合法性確認や記録義務などの制度が進んでいます。
このように、森林リスクは「環境課題」だけではなく「規制対応・取引要件」として企業に迫ってきています。
また、森林質問書の対象は、木材、パーム油、大豆、畜産といった森林リスクコモディティを直接調達する企業に限られません。これらのコモディティは最終製品の原材料として含まれるだけでなく、「組み込みコモディティ(embedded commodities)」として生産・製造工程で使用される場合もあります。
組み込みコモディティとは、製品としては残らなくても工程上で使用されるコモディティを指し、たとえば牛肉生産に必要な飼料用大豆や燃料用木材などが典型例です。そのため、川上のみならず川中・川下企業にまで開示要請が広がり、「自社は森林に関係がない」とは一概に言い切れません。
CDP水・森林のスコアリング対象企業の選定基準
CDPの要請対象は「環境影響 × 収益規模」で決まる
CDPの水・森林質問書は、すべての企業に送付されるわけではなく、一定の基準でスコアリング対象企業が選定されます。
この選定は主に、①環境影響度の評価と②収益要件(売上閾値)を組み合わせて行われます。
CDPは投資家の要請に基づき、企業に対して「どの環境テーマを優先的に開示してほしいか」を判断しています。
そのため、選定基準を理解することは「なぜ自社に要請が来たのか」を説明できるだけでなく、回答で強調すべきリスク領域の整理にもつながります。
水セキュリティスコアリング対象企業の選定方法
水セキュリティのスコアリング対象企業は、CDP独自の Water Watch を用いた影響度評価により選定されます。
Water Watchでは、各事業活動について、取水・消費量(水量)と水質影響を、自社/供給/使用の3段階で0〜3点で評価し、合算して0〜18点のスコアを算出します。
このスコアに基づき、企業は Critical/Very High/High/Medium の帯に分類されます。
さらに、要請対象は収益要件と組み合わせられますが、Critical/Very Highに分類された企業は収益規模にかかわらず要請されるのが特徴です。
つまり水セキュリティ質問書の開示要請が届くこと自体が、CDPにより水リスクが高いと評価された結果であると考えられます。
参考:CDP Capital Markets Request
・影響度評価(Water Watch):CDP独自のWater Watchで、各活動の取水・消費(量)と水質影響を、自社/供給/使用の3段階で0〜3点評価し合算(0〜18点)。Critical/Very High/High/Mediumに帯分けする。
収益要件:下表のとおり。Critical/Very Highは収益金額にかかわらず要請。

森林スコアリング対象企業の選定方法
森林領域でも、CDPは森林破壊への影響度に基づいてスコアリング対象企業を選定しています。
CDPは200超の事業活動ごとに、パーム油・木材製品・畜牛由来製品・大豆・天然ゴムといった森林リスクコモディティとの関連を評価します。
評価は、バリューチェーン各段階(自社・供給・使用)における森林影響を0〜4点で評価し、その結果により Critical/Very High/High/Medium に分類されます。
さらに森林では、影響が大きいほど収益の閾値が低くなるため、影響度の高い企業ほど要請対象になりやすい仕組みです。
さらに森林では、影響が大きいほど収益の閾値が低くなるため、影響度の高い企業ほど要請対象になりやすい仕組みです。
・影響度評価:200超の事業活動ごとに、パーム油・木材製品・畜牛由来製品・大豆・天然ゴムとの関連で、バリューチェーン各段階(自社・供給・使用)の森林影響を0〜4点で評価し、Critical/Very High/High/Mediumの帯に分類。
・収益要件:影響が大きいほど収益閾値は低い。
・継続要請:前年に森林で回答した企業は、条件が大きく変わらない限り翌年も要請される。
水セキュリティ・森林への回答に向けた準備
CDP水・森林質問書は、収集対象となる情報が多く、環境部門のみでは必要な情報を十分に収集できない点に課題があります。
水は拠点管理・生産・環境データが必要であり、森林は調達部門やサプライヤー情報が必要となります。
CDP回答の作成時期に入ってから情報を集めようとすると、担当部門との連携が遅れ、回答の質が低下しやすくなります。
また、データ不足を理由に空欄が増えると減点が増え、スコアにも影響します。
そのため、回答作成期間に入る前に「体制」と「データ」の準備を終えておくことが最も重要です。
どのようなデータが必要か
水セキュリティおよび森林質問書への回答を進める際には、まず現状把握とデータ整備に着手することが重要です。初年度は完璧なスコアを目指すよりも、現状把握とデータ整備に重点を置くことが望ましいです。
水セキュリティや森林質問書への回答をする場合、例えば下記データが必要となります。
・拠点一覧(拠点名、操業国、隣接する河川流域など)
・水リスクや森林コモディティに関するシナリオ分析資料
・全社的な水会計(取水量、排水量など)
・コモディティデータ(調達量、生産量など)
これらの情報を回答作成期間に入る前から早めに収集し、整備を進めておくことが重要なポイントです。
さらに次のステップとして、TNFDを参考に自然との接点やリスクと機会の洗い出し、更には目標設定へ進むことを推奨します。こうすることで、将来的なリスク低減や事業機会の創出にもつながり、結果として事業の持続可能性を高めます。
なお、ReChromaではCDP水セキュリティ・森林質問書への回答に向けたデータ整理や社内体制構築、回答作成まで一貫してご支援しています。回答期間に入ってから慌てないためにも、まずは現状把握からお気軽にご相談ください。
参考文献
[1]CDP「CDP:企業/自治体の環境情報開示の促進」
[2]CDP「CDP2023水セキュリティ」
[3]CDP「CDP2023フォレスト質問書 導入編」
[4]CDP 2023年 企業向けフォレスト質問書 回答に向けて(詳細版)
[5]CDP「CDP Forests Sample – Investor Request 2023」
[6]CDP「CDP Water Watch」
[7]CDP「CDP Capital Markets Request」
[8]WWFジャパン「資料案内『水リスクへの視点 自社拠点から流域へ・自社からサプライチェーンへ』」
[9]WWFジャパン「企業の『水リスク』対応に必要な5つの視点」
[10]WWFジャパン「【開催報告】企業向けセミナー:バリューチェーンの水リスクをどのように管理するか? -TNFDやSBTNの仕組みを踏まえて 」
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