世界中を取り巻くESGの潮流に合わせ、SBT認定の対応を進めている企業の担当者様も多いことと存じます。
本記事では、SBTの基本概要SBT申請手順SBT認定のポイント弊社の深い知見に基づくSBT認定のコツをわかりやすく解説します。

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SBTiとは?

SBTiとは、Science Based Target initiative(科学と整合した削減目標イニシアチブ)の略称です。世界の平均気温の上昇を1.5度未満に抑えるため、企業に対して科学的な知見と整合した削減目標を設定するよう求めるイニシアチブです。

2014年9月に4つの国際団体(CDP、WRI、WWF、UNGC)が運営主体となりSBTiを設立しました。この“SBTi”の事務局が認めた目標値のことを“SBT”といいます。

SBT認定企業の動向

世界全体でも、日本ではSBTの企業は比較的多く、2023年3⽉1⽇時点での認定企業は369社に拡⼤しています。
また、特筆すべきはその「コミット」の少なさおよび「認定」の多さです。

「コミット」とは、SBTを設定しますよという“宣言”を事務局にしただけの状態です。実際には目標値は設定しておらず、日本においては「認定」と比較して顕著に少ないことがわかります。このことから、GHG削減目標の設定においては日本では地に足のついた取り組みが進んでいると言えます。

SBTに参加している国別企業数。日本企業のSBT認証の動向。
環境省[1]より(2022年8月1日現在)


また、SBT認定は行政においても重視されています。

建築業界では、脱炭素に取り組む建設会社に加点する動きが広まっています。具体的には、SBT認定(温室効果ガスの削減目標)やバイオ燃料の使用が加点の要素とされています。
更に国土交通省は入札審査において脱炭素を取り入れ、 工事成績評定でインセンティブを与える体制を積極的に検討しています。詳しくはちら


「中小企業向けSBT」も存在

SBTiは、通常のSBTとは別に、中小企業向けのSBT基準を設けました。通常のSBTと比べ、負担が少なく着手が容易であるという特徴があります。
具体的な違いについては、下記表をご覧ください。

中小企業向けSBTと通常SBTの比較表
環境省[2]より

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SBT取得のメリット


SBTを取得するメリットとしては、下記3点が挙げられるでしょう。

(1)評価機関からの評価向上
(2)投資家からの評価向上
(3)顧客からの評価向上

NGO等の外部のステークホルダーは、科学に整合した目標(=SBT)を設定し開示することを多方面で求めています。例えば、株主総会シーズンでメディアに頻繁に取り沙汰された「気候株主提案」では、削減目標値が1.5℃水準に整合しているかどうかが大きな論点の一つでありました。詳しくは、「増える『“気候”株主提案』どう備える?」をご覧ください。

SBT認定 申請の手順

SBT認定の申請の流れは下記の通りです。
(1)Commitment Letterを事務局に提出(任意)
(2)目標を設定し、申請書を事務局に提出
(3)SBT事務局による目標の妥当性の確認(有料)

(1)Commitment Letterを事務局に提出(任意)

こちらは任意ですが、はじめにCommitment Letterを事務局に提出します。先述の通り、“コミット”とは2年以内にSBTに準拠した目標を設定することの宣言です。このコミットの表明によりSBT事務局・CDP・WMBのウェブサイトでその旨が掲載されます。

SBTiのウェブサイトから「SET A TARGET」「GET STARTED」「①COMMIT」の順にアクセスします。そして、「SBT Commitment Letter」からダウンロードしたレターに署名し、事務局の担当窓口に送付します。(commitments@sciencebasedtargets.org)

(2)SBT目標を設定し、申請書を事務局に提出

目標設定後、12項目からなる「目標認定申請書(Target Submission Form)」を事務局に提出します。

SBTiのウェブサイトから「SET A TARGET」「GET STARTED」「③SUBMIT」とアクセスし、「SBTi Target Submission From」から申請書のダウンロードが可能です。

(3)SBT事務局による目標の妥当性の確認(有料)

申請を受け付けた事務局は、目標の“妥当性確認”をすることでSBT認定の審査を行います。この目標の妥当性確認には、最大2回の目標評価を受けられる内容で、USD9,500の申請費用が必要です。それ以降の評価には、1回につきUSD4,750の費用が必要になります。

以上のプロセスを経て晴れてSBTが認定された場合には、顧客向けに公表する、投資家向けにIR情報として掲載するなど、ネットゼロへの取り組みのPRとして公式に活用できるようになります。

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SBT認定「目標設定」のポイント


上記「SBT認定 申請の手順」のうち(2)の「目標を設定」のフェーズは煩雑であります。そのため、目標設定のプロセスが明確に把握できていない担当者様もいらっしゃるのではないでしょうか。

この章では、目標設定の段階における基本的な認定基準に加え、弊社の支援現場に即したナレッジを紹介いたします。

基本的なSBT認定基準

認定のための基本的なポイントは下記の項目にまとめられます。

SBT認証基準の概要
環境省[3]より弊社作成

対象範囲(バウンダリ)

GHG削減目標の組織範囲(バウンダリ)は連結子会社を含む企業全体の活動を含むことが必須条件です。この範囲におけるスコープ1,2,3までの全てのGHG排出が対象として規定されています。なおSBTでは、親会社・グループ会社のみが目標を設定して認定を受けることが推奨されています。

スコープ3の排出量に関しては、スコープ1,2,3を合わせた排出量のうち40%以上を占める場合において目標設定が必須になります。このことは連結子会社のスコープ3の把握が必要ということを示唆しています。また、天然ガスや化石燃料に関わる事業を行っている場合、排出量の比率に関係なく、販売した製品由来のスコープ3の目標設定が求められます。

基準年・目標年

【基準年】
データが存在する最新年を基準年として設定することが規定されています。この基準年が申請年(開示時点の年)に近いほど外部からの高評価を期待できます。なお、2015年以前の年を設定することはできません。

【目標年】
目標年は申請年から5年〜10年の範囲内で設定することが必須条件です。またこの短期目標(Near Term)に加え、2050年までの長期目標(Long Term)の設定もSBTにより推奨されています。
なお現在ではコロナ期間ということもあり基準年に関しては一定の配慮がなされています。

目標水準

産業革命以前の排出量と比較し、スコープ1,2の目標値は少なくとも1.5℃を下回る水準で設定する必要があります。またスコープ3においては2℃を“十分に”下回る水準が求められます。なお化石燃料製品を扱う企業の目標値は、スコープ1,2,3を通して1.5℃シナリオに整合していなければなりません。

SBTに準じた進捗報告

企業は設定した目標値への進捗と現状のGHG排出量について、1年に1度CDPなどで開示することが求められます。

目標値の見直し

SBTの設立目的でもある“科学と整合”した水準を維持するためにも、最低でも5年ごとに目標値を見直す必要があります。また、必要に応じて再計算・再設定をしなければなりません。

確実なSBT認定のために:実践的なポイント

上記で整理した項目はあくまでも基本的な要求事項であるため、いずれの企業も押さえる必要がありますが、ここからはより実践的な内容を解説します。

SBT認定では削減手法は大きな審査対象にならない

先述の通り、SBTiはあくまでもGHG排出量の削減の”目標設定”に主眼をおいたイニシアチブです。そのため具体的な削減手法や実現可能性について特段の追及をされることはありません。SBTi事務局による認定を受けることを目的とする場合、削減手法に焦点を当てる必要はないと考えています。

排出削減に関してはACTというイニシアチブが管轄していますACT(Assessing low-Carbon Transition initiative)はCDPとフランス環境エネルギー管理庁(ADEME)とが2015年に共同で設立したイニシアチブです。主に企業のGHG排出削減の実行能力のスコアリングを行っています。具体的には、排出削減目標値に加え、その目標達成のための取り組みや投資額、また各ステークホルダーとのエンゲージメントも評価項目に含まれています。

そのため、ステークホルダーとのコミュニケーションを円滑にする目的でSBT目標を設定する段階では、大きな審査対象にならない“自社のGHG削減能力や削減手法”に妥協点を見つけることも致し方ないと考えています。

スコープ3における“任意排出”を目標設定から省くことができる

GHGが定義するスコープ3算定の際には、対象とすべきGHG排出の範囲(バウンダリー)に従う必要があります。これはデータ収集の制限を勘案した“最小の境界”と、カテゴリの理想的な算定方法である“任意”の2種類からなります。

みずほ情報総研[4]GHG Protocol[5]より

任意と表現されていることから一見、算定者に判断が委ねられているように見えます。しかし決してそうではなく、算定の手間等を考えた場合、この“任意”の手法には従わない方が得策です

むしろ、GHGプロトコルの取り決めによりこの“任意”排出を省いたものを削減目標に含めなければなりません。そのため、任意排出を含める場合は、既存の“最小の境界”に加えて“任意”の箇所に言及した項目を作成する必要が出てきます。そのため、目標値の設定の際には原則は“任意”の排出は算定しないことが推奨されます。

組織範囲を小さく設定する方法

上記で概観したSBTの認定基準にて、組織範囲は「連結子会社を含む企業全体の活動を含むことが必須条件」であると説明しました。ただし、この「子会社」の範囲を細かく定義することでGHG削減の対象範囲をより小規模に設定することが可能です。

対象範囲の縮小には、「財務支配力」の基準で子会社の対象範囲を決定するという方法を用います。

以下、「財務支配力」の基準で子会社の対象範囲を決定する方法について解説いたします。

排出量算定の国際的なスタンダードであるGHGプロトコルは、子会社に含む範囲を企業会計にも用いられる以下の2つの基準のどちらかをもとに決定するよう求めています。


 1, 企業が支配力を及ぼしている関連会社を“子会社”とみなす支配力基準
 2, 議決権のある株式の過半数を所有している企業すべてを“子会社”とみなす出資比率基準

GHG算定においては、1つ目の“支配力を及ぼしていない”関連会社を子会社として見なさない「支配力基準」を用いることが推奨されます。なぜなら、子会社の対象範囲が小さくなり、GHG削減の対象範囲も小さくなるためです。「支配力基準」はさらに、株式保有割合を基準とする「財務支配力 (financial control)」と、資産・設備・経営方針等への支配力を基準とする「経営支配力 (oprerational control)」に分けられます。

日本の企業会計基準では上記の「財務支配力」が用いられていることが一般的です。しかし、グループ内に多くの関連会社がある企業様も自社の財務諸表に掲載されている子会社を組織範囲として設定することで、GHG排出対象範囲を小規模にすることが可能です。

まとめ


この記事では、SBTの概要、申請の流れ、取得の基本ポイントと弊社支援実績に基づく発展ポイントを解説しました。

SBTiとは4つの非営利団体が運営する“目標設定”に主眼を置くイニシアチブです。諸外国と比較しても日本における認定企業数は多い傾向にあります。また認定の申請は3ステップで完了しますが、2ステップ目の「目標設定」はとても煩雑なプロセスです。そのため、基本的な要求事項と認定に役立つティップスを紹介しました。

記事で説明した内容が、担当者様の業務に少しでもお役に立てるのであれば大変光栄です。

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