Last Updated on 2023年12月4日 by 安井悠真
企業の社会的責任や投資市場の文脈で聞かれるCDPという組織。
今回は、企業のサステナビリティーを考えるうえで必須のCDPという組織について解説します。
CDPとは?
CDPの概要
CDPは、投資家、企業、国家、地域、都市の活動やそれに伴う環境影響を評価・情報公開するプラットフォームを運営する英国の非政府組織(NGO)です。
2000年に「Carbon Disclosure Project」として組織が作られ、気候変動への影響のみを扱っていました。森林や水の分野にも対象を拡大していく中で、名称が現在の「CDP」に変更され、現在に至ります。[1]
CDPのミッション・ビジョン・戦略
CDPのWebサイトには、「私たちは、長期的に人々と地球のために機能する経済の繁栄を望んでいます。私たちは、投資家、企業、都市、政府に対し、環境への影響を測定し、改善することによって持続可能な経済を構築することに焦点を当てています。(著者和訳)」とあります。[1]
CDPは、ミッション・ビジョンにあるように、気候変動等の環境問題の大きな原因となっている企業や公的機関の活動の評価・情報開示をすることで、環境問題対策を進めようとしています。世の中にある全ての組織にとって、安定した活動をするうえで社会全体からの評価は非常に重要になります。投資家からの出資によって成り立つ民間企業からすれば、社会的評価を気にしなければならなくなります。
現在では、CDPは環境問題、特に気候変動の分野における社会的評価を主導する機関としての権威を獲得することで、投資家等を経由して、企業や公的機関の活動へ大きな影響力を持つようになっています。そして、CDPが設ける枠組みに参加する企業や公的機関が増加することで、その影響力はさらに強まっていきます。
CDPの組織体制
「The CDP Global system」がCDP全体を統括しています。そのもとに、ヨーロッパ地域を対象とする「CDP Europe AISBL」、北米地域を対象とする「CDP North America」、その他地域を対象とする「CDP Worldwide Group」という大きく三つの組織が置かれています。日本にあるCDPの正式名称は「CDP Worldwide-Japan」であり、「CDP Worldwide Group」に所属しています。[1]

(弊社作成)
非営利組織においては、独立性を評価するうえで収入源が重要な指標となりますが、CDPは2021~2022年の会計年度では、慈善事業を対象とした助成金、政府からの助成金、情報開示に関連したサービス事業、企業収入等が主な収入源となっています。これらが収入のほとんど全てを占めており、独立性の高い組織であると言えます。[1]
企業に対するCDPの活動
CDPは、現在では気候変動、フォレスト、水セキュリティという三つの分野での評価・情報公開を行っています。評価・情報公開においては、各組織(企業、自治体など)ごとに異なった枠組みを設けていますが、ここでは企業に対する枠組みについて紹介します。
まず、CDPに対して機関投資家やサプライチェーンメンバーからの要請があった場合、CDPがそれらの要請を代表し、回答を求められている企業に質問書を送付します。回答要請を受けた企業は回答をしないことも可能ですが、社会的評価が企業の利益に関わることから、回答するインセンティブを持つことになります。また、要請がなくとも、企業が自主的に回答することも可能です。CDPは、CDPの枠組みに則った情報公開を行うことによって企業が得られるメリットとして、以下を挙げています。[1]
・企業の評判の維持・改善
・企業競争力の強化
・これまでの取り組みの強調
・リスクと機会の発見
・規制の先取り
企業の評判に与える影響が重要であることは間違いありませんが、それ以外にも、環境に関連した企業戦略を作成する契機になることもメリットとして挙げられることが分かります。
そして、回答の際には、CDPが準備しているガイダンス等を参考にすることができます。回答後には、CDPによってA~Dのランク分けがされます。A評価を受けた企業は「Aリスト企業」と呼ばれ、「Aリスト企業アワード」が年に一度開催されるなど、注目を集めることができます。また、回答結果は、他企業の回答結果と合わせてCDPのレポート等に用いられます。

(出典:CDP資料より抜粋 [2])
より詳細な内容については、CDPが作成している様々な資料やウェビナーを参考にすることをおすすめします。なお、ニュースレターの配信も行われています。
その他、CDPは気候変動対策を推進するための様々な連合組織の事務局や主導団体としての役割を担う活動も行っています。
TCFD・SBT等との関係
TCFDとは
TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)は、G20の要請を受けて金融安定理事会内に設けられた委員会を指します。金融安定理事会は、主要各国や経済・金融に関する国際機関が金融問題について議論する会議です。TCFDが作成し、2017年に公表された報告書において、気候変動に関連し企業が開示すべき情報の項目が示されました。その項目は大きく、ガバナンス、戦略、リスクマネジメント、指標と目標の4つで構成され、このような項目自体をTCFDと呼ぶことも多くあります。[3][4]
また、2022年11月8日には2024年度のCDP開示からは現在のTCFDをベースとした枠組みからISSBの枠組みに取って代わられることをIFRS財団とCDPが共同で公表をしており、ISSBへの対応も必要になってくると推測されます。
※参考 ISSBの「気候関連開示」がCDPに統合へ2024年から
SBTとは
SBT(Science Based Target)は、パリ協定の1.5℃目標ないし2℃目標に整合した企業の温室効果ガス削減目標の基準を定めたものです。SBT認定などの運営は、We Mean Business連合(企業や投資家の気候変動対策を推進する種々の団体が集まって運営しているプラットフォーム)の活動の一環として、CDPを含めた4つの団体によって行われています。[5][6]
国際的な基準とCDP
CDPが作成する質問書や評価基準は、TCFDやSBTなどの国際的に認知された基準に従っています。前述の二つ以外にも、RE100、IUCN、CEO Water Mandate、Accountability Frameworkなどの基準に整合したものとなっています。
そのため、CDPの枠組みの中で高い評価を得る企業努力をすることは、その他の環境問題への対策やその情報公開に関する基準を満たすことにも繋がるのです。
(弊社作成)
今後の動向
2021年から2025年までの5カ年計画
CDPは、2021~2025年の間の5カ年計画を発表しており、その中で情報公開と評価の枠組みに関して、以下の8つの方針を示しています。[7]
1. プラネタリーバウンダリーを網羅するために範囲を拡大すること
2. 科学に基づく移行の道のりの進捗状況を追跡し、採点すること
3. 新たな関係者に働きかけることで、システムの影響力を高めること
4. 活動をさらに促進することで、政策をさらに野心的にすること
5. CDPのプラットフォームによって、様々な基準を大規模に実施すること
6. 地域に根ざした行動の媒体となり、行動を拡大させること
7. 新しいテクノロジーで透明性を高め、複雑さを軽減すること
8. CDPのプラットフォーム内への社会とガバナンスの指標の導入を強化すること
(著者和訳)
プラネタリーバウンダリー
全体として、さらなるプラットフォームが持つ機能と影響力の拡大を目指していることが分かります。特に、「1. プラネタリーバウンダリーを網羅するために範囲を拡大すること」は重要なものとなっています。
プラネタリ―バウンダリーとは、9つの自然環境に関する項目と、それぞれの項目での持続可能な環境負荷の閾値を示したものです。プラネタリ―バウンダリーの概念は、人間社会が地球環境に与えている影響を包括的に扱っています。そのため、プラネタリ―バウンダリーで示されている9つの項目を網羅するということは、CDPの質問書が扱う分野を生物多様性、海洋、食料などの環境問題全般へ拡大することを意味するのです。

(出典: Will Steffen et al. “Guiding human development on a changing planet”[8]))
まとめ
CDPは、他の団体や枠組みと関係しながら企業の評価・情報開示を進めることで、環境問題への対策を推進しています。気候変動などの持続可能性に関わる問題がさらに重視されていく中で、企業に対する影響力を持ち続けるでしょう。今後も、CDPの活動への注目が必要です。
参考文献
[1] “CDP Worldwide” Webサイト。
<https://www.cdp.net/en>(最終閲覧:2023年10月16日)
[2]CDP(2022)「[企業向け] CDP概要と回答の進め方」
[3]日本銀行「金融安定理事会(FSB)とは何ですか?」
<https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/intl/g06.htm>(最終閲覧:2023年10月16日)
[4]TCFDコンソーシアム 「TCFDとは」
<https://tcfd-consortium.jp/about>(最終閲覧:2023年10月16日)
[5]環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ(2022)「We Mean Businessについて」
<https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/WMB_20221201.pdf>
[6]環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ(2022)「SBT(Science Based Target)について」
<https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SBT_syousai_all_20221201.pdf>
[7]CDP(2021) “ACCELERATING THE RATE OF CHANGE”
[8]Will Steffen et al.(2015) “Guiding human development on a changing planet” Science, Vol 347, Issue 6223.
<https://www.science.org/doi/10.1126/science.1259855>
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