Last Updated on 2024年4月25日 by Yuma Yasui

企業が気候変動対策に取り組むにあたり、「温室効果ガスの削減」が鍵であり、最優先事項とも言えます。

しかし、具体的には何をすればいいのでしょうか。温室効果ガス排出の原因を分解することで、打つべき対策が見えてきます。

この記事では、温室効果ガスの基本的な知識から、企業が温室効果ガスを削減する方法を、国内事例を紹介しながら解説していきます。

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温室効果ガスとは?基本的な知識をおさらい

温室効果ガスとは、大気中に含まれる二酸化炭素やガスの総称です。

「Greenhouse Gas」または略して「GHG」とも呼ばれています。

温室効果ガスが増加する原因とは?

産業革命以降、人間が排出する温室効果ガスの量が急激に増加し、これが地球温暖化の一因となっています。このため、世界全体で温室効果ガスの削減が取り組まれています。

以下のグラフのように、温室効果ガスにはいくつかの種類があります。そのうちの約76%を二酸化炭素が占めています。

二酸化炭素の排出量と世界平均地上気温の上昇変化はおおむね比例関係にあると言われています。つまり気候変動を止めるには、二酸化炭素を減らすことが鍵となります。

温室効果ガス総排出量に占めるガス別排出量

出典)温室効果ガスインベントリオフィス
全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト
http://www.jccca.org/

二酸化炭素はどこから排出される?

二酸化炭素は、石油や石炭などの化石燃料の燃焼などによって排出されます。

2021年度に日本で排出された二酸化炭素は以下の通りです。

エネルギー転換部門において、多くの二酸化炭素が排出されていることがわかります。

[二酸化炭素排出量の内訳]

出典)温室効果ガスインベントリオフィス
「日本の1990-2020年度の温室効果ガス排出量データ」(2023.4.22発表)
https://www.nies.go.jp/gio/aboutghg/index.html

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温室効果ガス削減に取り組む企業が急増

近年、国内で温室効果ガス削減に取り組む企業が急激に増加しています。

背景としては、日本政府の2050年までのカーボンニュートラル宣言、2022年よりプライム市場では気候変動関連の情報開示が求められるようになったことが挙げられます。

多くの国で環境規制が厳しくなりつつあるのと同様、脱炭素に関する法規制は今後日本でも加速すると予想されています。また、ESG投資家の増加により、企業による脱炭素経営は必須のものとなりつつあります。

さらに、海外へ進出する日系企業は、脱炭素化に取り組まなければサプライチェーンから除外されるリスクが現実的となりつつあり、機会損失のリスクに繋がる可能性もあります。この流れは国内でも顕著になってきています。

いち早く企業での温室効果ガス削減に取り組むことが重要です。

企業が温室効果ガスを減らすには?

企業が温室効果ガスを削減する具体的な方法は、主に以下のようなものがあります。

①GHG排出量の可視化

まず初めに取り組むべきは、温室効果ガス排出量の可視化です。

可視化というのは、具体的には、事業活動において原材料調達から製造、廃棄、運搬、リサイクルに至るまで、それぞれの工程でどれだけのCO2が排出されているかを数値化することです。

削減可能な工程を明確化することで、具体的な削減施策を打つことができます。

②省エネルギーの推進

照明をLED電球に変える、という取り組みは、電力量の削減方法としてとても有効です。

白熱電球(消費電力54W)からLED電球(消費電力9W)に変えることで、電力を83%もカットすることができます。

政府による補助金を利用して初期投資額を圧縮し、さらにエネルギーコストの削減まで繋げることができれば、大きな負担なく省エネを導入できます。

再生可能エネルギーの活用

再生可能エネルギーの活用方法はさまざまですが、最も簡単な方法として、電力会社・電力プランを再エネメニューに切り替えるというものがあります。

また「PPA(TPO)モデル」と呼ばれる方法も、近年中小企業の間で注目されています。電気小売事業者が、第三者に設置した再エネ設備から供給される電力を送電する電力サービスです。自己負担不要で再エネ設備を設置できたり、供給された再エネ電力プランを利用することができます。

低炭素自動車の導入

自動車はガソリンを燃焼させるため、多くの二酸化炭素を排出します。

EUでは、ガソリン車の新車販売を2035年に事実上禁止する方針が出されました。これにより電気自動車へのシフトが加速しています。

日本政府は、2021年に「2035年にはすべての新車販売を電動車にする」と表明しました。東京都は、2030年までに、市場に出される乗用車の新車販売をすべて電動化する方針を示しています。

こうした流れを受け、多くの企業が、社内で利用する自動車を、脱ガソリン車である電気自動車やハイブリッド自動車に切り替えています

国際イニシアチブへの加盟

国際イニシアチブとは、企業の脱炭素化の枠組みとなる情報・評価の国際機関です。グローバル企業を含む多様な企業が参加しています。

温室効果ガス削減の着手のしやすさが特徴であり、投資家やステークホルダーへの説得力にもなります。

サプライヤーへの脱炭素要請

国や投資家からサプライチェーン全体での脱炭素実現が求められる現在、サプライチェーンとともに温室効果ガス削減に取り組む企業が増えています。

サプライヤーへの脱炭素要請を行う企業が競争力としても優位となり、脱炭素に向けて能動的に動ける企業が、新たなサプライヤーとして選ばれる傾向にあります。

日本企業の取り組み 5つの事例で見る削減対策

続いて、現在国内で注目されている企業の取り組みを紹介します。

事例①大和ハウス工業株式会社

【取り組み】
・2030年度:GHG排出量40%削減(2015年度比)
 2050年度:GHG実質排出ゼロの実現目標
・省エネの推進、再エネの活用
・SBT、EP100、RE100へ参画

大和ハウス工業株式会社では、新築施設を原則ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)にし、既存施設では省エネを導入しています。

また、クリーンエネルギー自動車化を推進しています。2030 年までに社用車における導入率を100%に、業務に使用するマイカーにおける導入率を30%にすることを目標としています。

2020年度には、発電電力量が電力使用量を上回りました。2023年時点での再生可能エネルギー発電所の運営(自家消費含む)は、総電力使用量の1.57倍に相当しています。今後も太陽光発電を中心に再エネ発電の開発・稼働を拡大するとしています。

出典)大和ハウス工業「カーボンニュートラル戦略の具体的な取り組み」https://www.daiwahouse.co.jp/sustainable/eco/decarbonization/index.html?page=from_header

事例②三井金属鉱業株式会社

【取り組み】
・2030年度:GHG排出量38%削減(2013年度対比)
 2050年度:GHG実質排出ゼロの実現目標
・省エネの推進、再エネの活用
・Scope1,2の開示
・サプライヤーに対する要請、調査
・従業員の自動車通勤中止、公共交通機関の利用推進

三井金属鉱業株式会社は、2019年から一部の地域において、通勤バスを運行し、従業員の自動車通勤を全面的に中止しました。ほぼ全ての従業員が電車・バスの公共交通機関を利用することで、自動車通勤によるCO2排出量を大幅に削減しています。

さらに、一次サプライヤーに対し、調達方針の実行および自社のサプライヤーの管理を要請しています。

重要なサプライヤーに対しては、気候変動を組み入れる環境リスクを含めた総合的リスク評価によって抽出された自己評価アンケートを実施しています。これにより調達方針の実行状況を調査し、結果をフィードバックしています。

事例③パナソニックホールディングス株式会社

【取り組み】
・31工場でCO2排出量ゼロを実現
・Scope1,2,3の開示
・RE100への加盟
・省エネの推進、再エネの活用
・クリーンエネルギーの拡大

パナソニックホールディングス株式会社は、2030年までに全事業会社で自社拠点におけるCO2排出量の実質ゼロ化を目指しています。

2020年度には7工場、2022年度には31工場まで拡大、そして2024年の目標である37工場でのCO2ゼロ工場実現に向け、取り組みを進めています。

また純水素型燃料電池の活用や、熱交換システムや真空断熱ガラスといったエネルギー効率の高い製品の開発などを進めています。

さらに、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーにすることを目指す国際的なイニシアチブ「RE100」に加盟しています。2025年までに、使用する電力の全てを100%再生可能エネルギーへ切り替えることを目指しています。

出典)パナソニックグループ「Panasonic in Numbers:CO₂ゼロ工場」
https://news.panasonic.com/jp/stories/15044

事例④旭化成株式会社

【取り組み】
・2030年度:GHG排出量30%以上削減(2013年度対比)
 2050年度:GHG実質排出ゼロの実現目標
・再生可能エネルギーの活用
・Scope1,2,3の排出量の開示
・「CO2分離/回収/貯蔵」「バイオケミストリー開発」「グリーン水素製造の事業開発」

旭化成株式会社は、環境貢献製品を積極的に展開し、温室効果ガス削減と売上高拡大の両立を、自社の戦略として掲げています。

製品の環境影響を評価する社内認定として、レビューパネルを実施しています。

各製品の担当者が外部の有識者に対し、環境貢献内容を説明し、比較対象(ベースライン)の設定や妥当性について助言をもらうというプロセスを導入しています。

出典)旭化成株式会社「旭化成グループのカーボンニュートラルに向けた方針」
https://www.asahi-kasei.com/jp/sustainability/environment/climate_change/

事例⑤KDDI株式会社

【取り組み】
・2026年度:データセンターにおけるCO2排出量実質ゼロ目標
 2030年度:自社の事業活動におけるCO2排出量実質ゼロ目標
 2050年度:KDDIグループ全体におけるCO2排出量実質ゼロ目標
・再生可能エネルギーの活用
・再生可能エネルギー事業の展開
・可搬型蓄電池の導入

KDDI株式会社は、従来の削減目標から20年大幅に前倒しし、2030年度までにCO2排出量を実質ゼロにするという目標を掲げました。

太陽光発電の導入、エネルギー効率の向上を積極的に実施しています。

加えて、携帯電話基地局の停電対応において、これまでの移動電源車の代替として、より環境負荷の少ない可搬型蓄電池を国内12ヵ所に導入しています。

出典)KDDI株式会社「CO2排出量実質ゼロを2030年度へ前倒し」
https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2022/04/07/5984.html

企業が温室効果ガス削減に取り組むメリット

このように、積極的に温室効果ガスを削減する企業は年々増加しており、削減目標の引き上げも見られます。

企業が温室効果ガスを削減することで、これらのさまざまなメリットを享受することができます。

コストの削減

省エネやエネルギー効率向上により、エネルギーコストが削減し、企業の運営コストを削減することができます。

温室効果ガスの削減には初期投資が必要ですが、日本を含め、多くの国で政府による環境規制が厳しくなりつつあります。将来的な政府の規制遵守、そしてリスク軽減という観点からも、長期的に見るとこうしたコストの削減につながります。

投資家や顧客からの評価が向上する

国内でも、温室効果ガス削減を行う企業に投資するESG投資家や、サプライチェーンに気候変動対策を求める企業が急速に増加しています。

脱炭素に積極的に取り組むことで評価が向上し、新たなビジネスチャンスに繋がることが期待できます。

政府からの補助金を受け取れる

環境省と経済産業省は、企業に対して、「再生可能エネルギー導入」「エネルギー効率向上」「排出権取引」「カーボンクレジット」「研究開発」などの分野でさまざまな補助金を提供しています。

温室効果ガスに積極的に取り組む企業は、脱炭素経営のコストの一部を政府からの補助金で賄うことが可能です。

金融機関からの融資を受けやすくなる

金融機関は、環境への影響や持続可能性に焦点を当て、それらに基づいて融資の審査や条件を設定しています。

脱炭素に取り組む低リスクな企業に融資をすることで、長期的な収益性が高いと考え、積極的に資金を提供する傾向があります。

まとめ

持続可能な社会を作るために、各企業の脱炭素経営は欠かせない取り組みの1つです。

中でも温室効果ガス削減の取り組みは、企業価値を測る一つの指標であるとも言えます。こうした事例を参考に、取り組みの導入を検討してはいかがでしょうか。

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参考文献

[1] JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター 「日本の部門別二酸化炭素排出量(2021年度)」
[2] 国立研究開発法人 国立環境研究所(2023年4月)「日本国温室効果ガスインベントリ報告書(NIR)」 
[3] 経済産業省「エネルギー基本計画の検討状況について」
[4] 大和ハウス工業「カーボンニュートラル戦略」
[5] 三井金属鉱業「気候変動への対応について」
[6] パナソニックホールディングス「パナソニックグループの取り組み」
[7] 旭化成「気候変動への対応」
[8] KDDI「KDDIの環境方針と体制」

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リクロマ株式会社

当社は「気候変動時代に求められる情報を提供することで社会に貢献する」を企業理念に掲げています。

カーボンニュートラルやネットゼロ、TCFDと言った気候変動に関わる課題を抱える法人に対し、「社内勉強会」「コンサルティング」「気候変動の実働面のオペレーション支援/代行」を提供しています。

Author

  • 山下莉奈

    2022年10月入社。総合政策学部にて気候変動対策や社会企業論を学ぶ。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリによる国際的な組織での活動経験を持つ。北欧へ留学しサステナビリティと社会政策を学ぶ。