Last Updated on 2024年11月20日 by HaidarAli
【気候変動関連用語がまるわかり!用語集はこちら】
サステナ対応の一歩目として重要なマテリアリティ分析の中でも、ダブルマテリアリティについて、用語から好事例までを一気に解説しています。
SSBJについての無料お役立ち資料はこちら
⇒サステナビリティの新基準、ISSBについて包括的に理解する
マテリアリティとは
ダブルマテリアリティとはマテリアリティの考え方の一つです。
ではそもそもマテリアリティとは何かというと、「マテリアリティ=企業にとっての重要課題」となっています。
もともとは財務報告で「重要な事項」を意味する用語でしたが、持続可能な発展へ向けた社会の動きの中で、非財務情報が重視されるようになり、非財務情報における重要事項を意味して使われるようになりました。
特定までのパスなどより具体的に知りたい方は、こちらのコラムもぜひご覧ください。
「マテリアリティとは?特定までのプロセスと具体例を紹介 Part1」
「マテリアリティとは?特定までのプロセスと具体例を紹介 Part2」
ダブルマテリアリティとは
ここからは、本記事のテーマであるダブルマテリアリティについて解説していきます。
ダブルマテリアリティとは、すなわち、①企業の発展や活動、立ち位置、及び幅広く企業価値へのインパクトと、②企業活動によって引き起こされる、様々なステークホルダーに与える環境・社会インパクト、の二つの側面から重要課題を考えるアプローチ([1])を指します。
ダブルマテリアリティの定義
とくに、GRIはダブルマテリアリティの意味合いについて13の定義を定めています。
- 企業はまず初めに持続可能な開発に対するマテリアルインパクトを特定しない限り、財務的なマテリアルを特定しても不完全である
- 持続可能な開発とステークホルダーに対する企業のインパクトという観点からマテリアリティを特定することは、企業の持続可能な開発に対するフォーカスを高めることになる
- 単なる財務的なマテリアリティへのフォーカスではなく、組織・社会・環境にとっての価値にフォーカスを当てることで、企業はSDGsへのエンゲージメントを高めることができる
- マテリアリティの概念をサステナビリティレポートのプロセスに適用することは、ステークホルダーとのエンゲージメントを高める
- 持続可能な開発に関するマテリアリティに言及している企業レポートは、持続可能な開発に係る課題に関して広く社会のお手本となって影響を与える
- マテリアリティ分析の実施方法はかなり多様であり、あまり強固でない場合には、財務的な重要事項が優先される
- マテリアリティ特定プロセスの開示の欠如は、サステナビリティレポートの信頼性の欠損につながる
- マテリアリティ特定のための厳格なプロセスの欠如は不完全でミスリーディングにつながるようなサステナビリティパフォーマンスの報告につながってしまう
- サステナビリティ情報の保証業務は、主にデータのチェックに重点を置いているため、重要性の考え方やその開示は、保証業務の範囲に含まれない傾向がある
- 持続可能な開発に関するマテリアリティの開示は、価値と関連している
- 持続可能な開発に関するマテリアリティの特定と開示は、財務パフォーマンスを向上させる
- マテリアリティ評価プロセスは、投資の意思決定を強化する
- 中小企業にとっては、簡素化されたアプローチとガイダンスが有用であろう
([1]より弊社仮訳)
ここから、ダブルマテリアリティの考え方を採用することが、新の持続可能な開発につながる企業活動を支えることが分かります。
シングルマテリアリティとの違い
先ほど述べた通り、ダブルマテリアリティは財務的マテリアリティと社会・環境的マテリアリティの両方を考慮に入れる考え方です。ダブルマテリアリティを採用することで、市民・消費者・従業員・ビジネスパートナー・市民社会などの関心が高い観点を抑えることができます。
一方で、財務的マテリアリティのみを重視する考え方をシングルマテリアリティといい、主に投資家の関心が高い観点となります。すでにTCFD対応を進めている企業にとってはなじみのある考え方でしょう。
([2]より引用)
ダイナミックマテリアリティとの違い
その他、より包括的な企業報告を表す考え方としてダイナミックマテリアリティがあります。ダイナミックマテリアリティとは「課題一つ一つが時間の経過とともに財務的な重要課題となる可能性を持つパスをもっている、すなわち今日重要課題でないことが、明日にはビジネスにとって重要課題となる可能性を持つ」([3])という考え方を持つことです。
このように、ダブルマテリアリティとダイナミックマテリアリティは、相対する概念ではなく、同じプロセスにおける異なる側面を認識する、相互関係の概念となっています。
SSBJについての無料お役立ち資料はこちら
⇒サステナビリティの新基準、ISSBについて包括的に理解する
ダイナミックマテリアリティのメリット
ダブルマテリアリティを採用するメリット
ダブルマテリアリティを採用するメリットは次の通りです。
- 重要課題を包括的に理解し、組織間の多様な説明責任を果たすことで、ステークホルダーエンゲージメントを強化できる
- 企業によるダブルマテリアリティ分析を通じた、持続可能性に関するアイデンティティや活動・影響を継続的に定義し、マネジメントし、コミュニケートすることで、持続可能な開発の概念がより豊かに再構築される
- 持続可能性への投資は、短期的にはコストがかかるが、長期的にはビジネスに利益をもたらす可能性があり、マテリアリティ分析は、投資の意思決定に役立てることができる
- ダブルマテリアリティ分析を通した開示は、透明性を高め、不確実性を低下させるため、アナリストの予測精度、財務パフォーマンス、株価の情報などの正確性を上げることにつながる
企業一社一社がより包括的なダブルマテリアリティを採用することで、当該企業を含めた様々なステークホルダーに利益をもたらすことが分かります。
各フレームワークのスタンス
GRI
2021年4月21日、GRIはダブルマテリアリティの採用を確定しました。
アップデートされたGRI Universal Standardsでは、財務的に重要なリスクと機会を特定するために、経済・環境・人間に対する影響への理解が不可欠であることを明示しています。([4])
EFRAG
2023年7月31日、EFRAGは、CSRDのもとで策定されるESRSにおいて、ダブルマテリアリティを採択しました。ESRSの対象範囲に該当する企業は、財務的マテリアリティだけでなく、社会・環境マテリアリティを考慮した分析が求められるようになるでしょう。([5])
TCFD
2023年からの有報におけるサステナビリティ情報開示の義務化の流れもあり、対応をすでにしている企業も多いTCFDは基本的にシングルマテリアリティを採用しています。
ISSB
ISSBはシングルマテリアリティに落ち着きながらも、ダブルマテリアリティを補完的な概念として容認しているとみられています。また、マテリアリティの変化を前提に毎年の報告でマテリアリティを見直すことを求めていることから、ダイナミックマテリアリティを推奨していると考えられます。([6])
その他、最近では国際標準化機構(ISO)が、金融機関のトランジションファイナンスの規格化に取り組む中で、ダブルマテリアリティの視点の取入れの検討が行われています。([7])このように、少しづつ、より包括的なマテリアリティ分析を促す国際的なフレームワークの動向を読み取ることができます。
好事例
いざ、ダブルマテリアリティ分析を取り入れてみようと思ってもどう進めればいいかなかなか難しい部分もあると思います。そこで、ここではアメリカのたばこ企業であるPMIを例に分析方法についてみていきます。
PMIのダブルマテリアリティ分析
図のように、PMIは5つのステップで分析を行っています。
- ESGトピックの特定
- ステークホルダーの観点の収集
- 外向きのインパクト(環境・社会インパクト)の評価
- 内向きのナインパクト(財務インパクト)の評価
- PMIにとって最も重要なESGトピックの特定
ESGトピックの特定
このステップでは、PMIはデスクトップリサーチを通して、PMIに関連のありそうなESGトピックの洗い出しをしています。
リサーチ情報としては、当時のESGトピックのリスト、PMI関連会社が実施した現地分析、消費者の洞察、公衆衛生に関する議論、ESG投資家のトピックと格付け要件、メディアレポート、フレームワークなどがあるそうです。同時に同社の最新の統合リスク評価も考慮しています。
ステークホルダーの観点の収集
当社が特定したESGトピックのリストに関するステークホルダーの視点を収集するために、150名近くのステークホルダー(45%が社内、55%が社外のステークホルダー)に詳細な定性的インタビューを行い、オンライン調査を実施しました。主な調査の内容は、ステークホルダーに、PMIが最も注力すべきと考える10のサステナビリティ・トピックを選んでもらい、優先順位をつけるというものでした。また、アンケートの中にダブルマテリアリティという概念を組み込むため、ステークホルダーがPMIをどのように受け止めているかについての洞察を集めたそうです。
外向きのインパクトの評価
上流・直接操業・下流における環境・社会・ガバナンスへの影響を5つの評価基準(インパクトの大きさ・範囲・可能性・修復不可能性・PMIのトピックに対する影響度)で評価しています。
内向きのインパクトの評価
国際的な法規制や、メディアによる論争、セクターのリスク分析などを考慮し、社内外のステークホルダーへのインタビューなどを通して、各ESGトピックごとに評価し、スコアを付けています。
PMIにとって最も重要なESGトピックの特定
PMIは上で行った評価結果を以下のようなマトリクスにまとめるほか、SDGsとの関連性を明記するなど、マテリアリティ分析の結果を丁寧に開示しています。
まとめ
本記事では、ダブルマテリアリティの概念から、その他のマテリアリティとの定義の違い、採用するメリット、各フレームワークのスタンス、好事例の紹介を行いました。
マテリアリティ分析というつかみどころのない作業に難しさを感じる方も多いかもしれませんが、より包括的な分析を行う上で、ぜひ参考にしてください。
サステナビリティの新基準、ISSBについて包括的に理解する!
参考文献
[1]GRI 「The double-materiality concept Application and issues」
[2]経済産業省「サステナビリティ関連情報開示と企業価値創造の好循環に向けて」
[3]WEF「Embracing the New Age of Materiality」
[4]GRI 「Why double-materiality is crucial for reporting organizational impacts」
[5]欧州委員会「Question and Answers on the Adoption of European Sustainability Reporting Srandards」
[6]SBJ 「統合思考経営24 ISSBはシングル・マテリアリティ(中編)~株主資本主義とステークホルダー資本主義との間で」
[7]RIEF 「国際標準化機構(ISO)。金融機関のトランジションファイナンス規格化へ英提案。1年半で成立目指す。気候変動での企業の脱炭素化に加え、自然資本、「ダブルマテリアリティ」視点も」
[8]PMI「2021 Sustainability Materiality Report」
リクロマの支援について
弊社はISSB(TCFD)開示、Scope1,2,3算定・削減、CDP回答、CFP算定、研修事業等を行っています。
お客様に合わせた柔軟性の高いご支援形態で、直近2年間の総合満足度は94%以上となっております。
貴社ロードマップ作成からスポット対応まで、次年度内製化へ向けたサービス設計を駆使し、幅広くご提案差し上げております。
課題に合わせた情報提供、サービス内容のご説明やお見積り依頼も随時受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。
⇒お問合せフォーム
メールマガジン登録
担当者様が押さえるべき最新動向が分かるニュース記事や、
深く理解しておきたいトピックを解説するコラム記事を定期的にお届けします。