Last Updated on 2024年8月29日 by Moe Yamazaki

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2021年6月の東証CGコード改訂により、今年度4月からプライム企業へはTCFD開示が求められるようになりました。また金融庁によると、2023年度より、有価証券報告書における気候変動開示が義務化される見込みです(「金融庁 有価証券報告書にて気候リスクの開示義務化へ」)。


既に対応を始めている企業様におかれましては、TCFDの4要素の一つである「戦略」のシナリオ分析に取り組まれていることと存じます。そのプロセスにおいては、「リスクと機会」の洗い出しのステップを踏むことは避けられません

この度は〈シナリオ分析解説シリーズ〉と題し、煩雑なシナリオ分析の各プロセスを解説する連載を行う運びとなりました。今回のPart1の記事では、TCFDのおさらいをした後、TCFDにおける「リスクと機会」の基本的な解説と、企業の開示例を紹介します。

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TCFDとは

TCFDとは、2015年4月、気候関連の情報開示のガイダンス作成を目的に、G20の金融部門である金融安定理事会によって設立されたTask Force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)の略称です。このタスクフォースが2017年6月に公表した最終報告書(「TCFD提言」)にて情報開示のガイダンスが公開されたことから、「TCFD」という略称がそのまま開示の枠組みの呼称として参照されています。

TCFDの開示項目は4要素で構成される

TCFDは、気候変動が自社へもたらす影響についての企業の認識を、投資家等のステークホルダーが適切に評価できるよう、11の質問からなる4要素「戦略」「リスク管理」「指標と目標」「ガバナンス」について情報開示を求めています。

「戦略」では、気候関連のリスクと機会が事業、戦略、財務計画にどのような潜在的な影響があるかについて、「リスク管理」では、気候関連のリスクについて、どのように認識、評価、管理しているのかについて、「指標と目標」では、気候関連のリスクと機会を評価、及び管理する指標と目標について、そして「ガバナンス」では、気候関連のリスクと機会のガバナンスについて、開示が求められています。

今回は、上記の4要素の内の「戦略」における気候関連のリスクと機会を洗い出し、対応策にどう繋げていくかについてお話していきます。

TCFDについて、詳しくは「TCFDとは?対応の重要性から対応ステップまで解説」をご覧ください。

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TCFDにおける「リスクと機会」とは

リスクと機会とは、世界情勢や将来予測の情報を収集・分析した上で気候変動がもたらす企業の財務影響上のリスクと機会を指します。また、リスクと機会の洗い出しと評価の過程においては気候変動に関連するリスクのみならず、ビジネス上におけるリスクや情報セキュリティ、コンプライアンスに関連するリスクも評価することが一般的です。

さらに、そのリスクと機会の評価においては直接操業だけでなく、サプライチェーンの上流及び下流のいずれも含みます

「リスク」とは何か

気候関連リスクは「移行リスク」と「物理的リスク」の2つに分類されています。移行リスクについては、低炭素経済への“移行”に関するリスクと定義されており、また物理的リスクにおいては、気候変動による“物理的”変化に関するリスクと定義されています。これから、移行リスクと物理的リスクの種類についてご説明いたします。

「移行リスク」と「物理的リスク」の種類とそれぞれの具体的な内容

移行リスクは下記の環境省[2]資料の図においては5つの種類が紹介されています。5つにおける共通点はGHG排出への規制強化であり、規制強化を主軸に企業内部・外部の対応に係るコストとステークホルダーへの対応が挙げられています。

また、物理的リスクにおいてはこれから発生しうる可能性のあるサイクロンや洪水などの異常気象とその企業が関わる土地や国の気象パターンの変化に対する対応が主な内容となっています。

出所:環境省[2]より

「機会」とは何か

TCFD提言では気候変動緩和策もしくは適応における経営改革の機会を ①資源効率性 ②エネルギー源 ③製品/サービス ④市場 ⑤レジリエンス の5つに分類しています。それぞれの切り口とそれを通じた財務影響の例についてご説明します。

「機会」における5つの側面とそれぞれの具体的な内容について

同じく環境省[2]の資料においては、以下のようにそれぞれの機会における切り口と財務影響の例が記載されています。

例えば、製品/サービスにおける対策に関しては低炭素商品やサービス開発と拡大の取り組みにより、今後GHG排出の規制強化が考えられる中で低炭素商・サービスの需要が高まる可能性が考えられるということです。

また、強靭性に関しては再エネプログラムや省エネ対策の推進に取り組むことで、その企業の市場価値の向上に繋がるのではと考えられます。

気候変動の機会の種類
出所:TCFDguide_ver3_0_J_2.pdf (env.go.jp)

リスクと機会洗い出しの方向性

上記でご説明したリスクと機会の洗い出しは、はじめて取り組む場合と2回目以降も継続して行う場合では洗い出しの方向性が異なります。環境省[2]の資料の記載内容を踏まえて、下記にご説明いたします。

はじめて取り組む場合

リスクと機会の洗い出しを始めるにあたり、下記項目を実行済みであることが前提となります。

  • リスクと機会洗い出しの内容を社内で合意形成されているか。
  • 事業部の協力を仰いでいるか。
  • シナリオ分析の対象範囲・特定ができているか。

また、リスクと機会の洗い出し後に下記の項目を踏まえてリスクの重要度を評価する必要があります。

  • セクター且つ自社において重要な気候関連のリスクが特定できている。
  • また、リスクの具体的な影響も想定できている。

2回目以降で継続の場合

リスクと機会の洗い出しを2回目以降で継続的に行う際には、下記項目を踏まえて取り組むことを推奨します。

  • 前回のシナリオ分析結果を経営層・担当部署の責任者が理解している。
  • 事業部が実行主体を担うことができている。
  • シナリオ分析の対象範囲・担当者(体制)が当初よりも広がっている。

また、リスクと機会の洗い出し後のリスク重要度評価においては第一回シナリオ分析後に投資家との対話を踏まえたことを前提として、下記項目を実行する必要があります。

  • セクター、かつ自社にとって重要な気候関連のリスクが、より事業部や外部有識者の巻き込みによって具体化できている
  • リスクの具体的な影響についても、 より事業部や外部有識者の巻き 込みによって具体化できている

以上のように、それぞれの段階の方向性を考慮しつつ、シナリオ分析のステップを踏む必要があります。そのため、上記の内容を意識して、自社でどういったアプローチをするべきか是非検討してみてください。

企業の事例を用いてご説明

最後にENEOSホールディングスがHPで記載している気候変動におけるリスクと機会の内容を踏まえて、ご説明いたします。ENEOSホールディングスは、事業内容としてはエネルギー事業と石油・天然ガス開発事業、金属事業を主軸としている日本でもスーパーメジャーに匹敵する石油最大手企業です。2019年5月にTCFD提言への賛同・署名をし、情報開示の強化と充実に取り組んでいます。

ENEOSホールディングスの開示のポイント

ENEOSホールディングスのリスクと機会の洗い出しのポイントとしては2つあります。

1つ目に、環境意識の高まりが“石油需要の減少”に繋がる可能性があるということです。自動車などEV転換への動きが加速化する中で、石油を事業の主軸としている同社は売上に大きな打撃を受ける懸念があります。

2つ目に、“石油の代替品”となる新規事業参入です。先ほどのポイントの1つ目で触れた環境意識の高まりによる石油需要の減少への対応策として、新しい新規事業参入を考える必要があります。

以上を踏まえて、ENEOSホールディングスのリスクと機会の内容を一部抜粋して紹介致します。

リスクと対応策(移行リスク、物理的リスク)

ENEOSホールディングスのTCFD開示例、移行リスクによる財務影響について
出所:ENEOSホールディングス[3]より

ENEOSホールディングスのTCFD開示例、物理リスクによる財務影響について
出所:ENEOSホールディングス[3]より

機会と対応策(製品サービス、市場の観点から)

ENEOSホールディングスのTCFD開示例、機会による財務影響について
出所:ENEOSホールディングス[3]より

まとめ

以上、この記事ではTCFDに関するおさらいと、TCFD開示の「戦略」におけるシナリオ分析のファーストステップで行う「リスクと機会」に関する説明と実際に洗い出しをする際の方向性について解説しました。

リスクと機会の洗い出しでは、より精度の高い開示を行うことを目指すのであれば自社にとって重要な気候関連のリスクと機会を他事業部の担当者の協力を仰ぎ、また経営層を巻き込み検討する必要があります。

次の記事はこちら
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#TCFD#シナリオ分析

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「なぜ今TCFDが求められているのか」から、「どんなプロセスで対応していけば良いのか」
までをご理解いただけます。

参考文献

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弊社はISSB(TCFD)開示、Scope1,2,3算定・削減、CDP回答、CFP算定、研修事業等を行っています。
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