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CDPの質問書には、企業の規模や特性に応じて「完全版」と「SME版(中小企業版)」の2種類が存在します。本稿では、初めて回答を検討する、あるいは要請を受けた中小企業の担当者に向けて、SME版の仕組みと評価のポイントを解説します。

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1. SME版質問書の定義と開示が求められる背景

SME版の対象と目的

CDPは、主に従業員数500人未満の企業に対し、SME版質問書での回答を推奨しています。SME版は完全版と論理的構造を共有しつつも、リソースが限られる中小企業の負担を軽減するために設問が簡略化されており、入力項目数が抑制されています。

引用:Questionnaire Overview

サプライチェーンにおける重要性

現在、多くの大手企業が自社のScope 3(サプライチェーン排出量)の削減目標を掲げています。その達成には、仕入れ先である中小企業の協力が不可欠です。

中小企業がCDPに回答することは、単なる情報開示に留まらず、「サプライヤーとして排出削減の要請に応え、取引継続に必要な要件を満たしていること」を客観的に証明する手段となります。

2. SME版質問書の構成と主な評価項目

SME版質問書は、気候変動に関する「ガバナンス」「リスクと機会」「事業計画」「排出量と目標」の4つの柱で構成されています。2025年度の質問書構成(モジュール14~21)は以下の通りです。

SME版 質問書構成(Modules 14-21)

モジュール項目内容の要点
14イントロダクション企業概要の記述
15依存、影響、リスクと機会リスク・機会の特定・評価・管理プロセス
16リスクと機会の開示認識している具体的なリスクおよび機会の内容
17ガバナンス環境課題への責任体制、方針、経営層の役割
18事業戦略財務計画への影響、移行計画、バリューチェーン連携
19環境パフォーマンス連結組織境界、連結アプローチの設定
20環境パフォーマンス排出量(Scope 1, 2, 3)、エネルギー活動、削減目標
21追加情報・最終承認署名者情報の入力
SME Questionnaireを基に弊社作成

3. 開示に必要な社内データの準備

SME版の回答を完了させるためには、定性・定量の両面で以下のデータを整備する必要があります。

定性データ(管理・戦略情報)

  • ガバナンス体制: 気候変動対策の最高責任者、報告頻度、社内規程の有無。
  • リスク管理: 課題特定の手順および、特定されたリスクが事業に与える財務的影響(影響額、対応費用)。
  • バリューチェーン連携: サプライヤーに対する排出削減ガイドラインの策定状況や、顧客からの要請への対応状況。

定量データ(数値情報)

  • 温室効果ガス(GHG)排出量: Scope 1(直接排出)、Scope 2(間接排出)、およびScope 3(バリューチェーン内)の算定。
  • エネルギー使用量: 燃料、電力、熱などの種別ごとの使用実績。
  • 目標と実績: 設定した削減目標の進捗状況および、当年度に実施した省エネ活動等による削減量。

4. スコアリングのルールと評価向上の要件

CDP SME版で高評価を獲得するためのポイントを解説します。

失点を防ぐための記述原則

  1. 空欄の回避: 開示スコア(D)を確保するためには、すべての必須項目を埋めることが大前提です。
  2. 階層的評価の理解: 「認識(C)」以上のスコアを得るためには、その基礎となる「開示」ポイントが満たされている必要があります。
  3. 自社固有(Company-specific)の記述: 自由記述欄では、一般論ではなく、具体的な事業所名、サービス名、財務影響額、排出量などの数値を記載することが、加点の必須条件となります。

注釈: 効率的かつ正確な回答には、CDPが発行する「ガイダンス(設問詳細説明)」および「メソドロジー(採点基準)」の参照が不可欠です。これらを確認せずに回答した場合、意図しない失点を招くリスクがあります。

5. まとめ:CDP SME版対応における実務上の要件

本稿で解説した重要事項を、以下の3点に整理します。

  • 取引継続における必要性: CDP SME版への回答は、主要な取引先が設定するScope 3削減目標への協力として機能します。これは、サプライヤーとしての適格性を証明し、取引を維持するための実務的な要件です。
  • 情報の正確性と具体性の提示: 管理体制を示す定性的な記述と、GHG排出量を示す定量的なデータの整合性が求められます。特に自由記述欄において、固有の名称や具体的な数値を明示することは、評価を確定させるための必須条件です。
  • 段階的な評価獲得の手順: まず全設問への回答を完了させて未記入をなくし、次に評価基準(メソドロジー)に合致した情報を提示することで、確実に評価を確定させることが可能です。

CDPへの回答に向けて、まずは現時点での排出量と管理体制を正確に把握しましょう。リクロマでは中小企業向けに、必要最低限の開示を支援するコンサルティングサービスを提供しております。ぜひご気軽にご相談ください。


お役立ち資料

CDP(気候変動質問書)とは?

【このホワイトペーパーに含まれる内容
・CDPの概要やその取り組みについて説明
・気候変動質問書の基本情報や回答するメリット、デメリットを詳細に解説
・気候変動質問書のスコアリング基準と回答スケジュールについてわかりやすく解説

リクロマの支援について

当社では、CDP2024の回答を基に、設問の意味や次年度の方向性を研修形式でご支援しています。自由記述の添削や模擬採点を通じ、スコア向上に向けた具体的な示唆を提供します。また、「まるごとやり直し」の対応が必要な企業様にも対応可能です。CDPスコア向上に向けた具体的なアクションをサポートしますので、ぜひご検討ください。

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Author

  • 加藤 貴大

    リクロマ株式会社代表。2017年5月より、PwC Mexico International Business Centreにて日系企業への法人営業 / アドバイザリー業務に携わる。2018年の帰国後、一般社団法人CDP Worldwide-Japanを経て、リクロマ株式会社(旧:株式会社ウィズアクア)を創業。大学在学中にはNPO法人AIESEC in Japanの事務局次長として1,700人を擁する団体の組織開発に従事。1992年生まれ。開成中・高等学校、慶應義塾大学経済学部卒業。

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