Last Updated on 2024年11月20日 by HaidarAli
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EU域内外の企業に対し、人権・環境デューデリジェンスの実施を義務付ける企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive(以下CSDDD))が2024年4月24日に欧州議会にて採択されました。
本記事では、CSDDDの概要や日本企業への影響について解説します。
<サマリー>
• CSDDDは、企業に人権や環境リスク管理を義務付けるEUの新指令
• 指令はEU域内外の企業を対象に、売上規模や従業員数で適用される
• 日本企業も対象で、サプライチェーン全体での対応が求められる
• デューデリジェンスはリスクの特定、防止、是正を含むプロセス
• 企業にとって早期にリスク管理体制と報告体制の構築が重要
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欧州サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)とは
CSDDD(欧州サステナビリティ・デューデリジェンス指令)は、「Corporate Sustainability Due Diligence Directive」の略称です。「デューデリジェンス(DD)」は企業のリスク評価とその対応を指す語であり、特にCSDDDは企業が環境と人権に対する負の影響を特定し、リスク管理を徹底することを目的としたものです。
この指令は、特にEU域内外の企業に対して、バリューチェーン全体でのデューデリジェンスを義務付けており、企業は自身の事業活動だけでなく、取引先やサプライチェーンにおける影響も考慮する必要があります。
具体的には、企業がそのサプライチェーンを通じて発生する環境への悪影響や人権侵害に対して予防措置を取ること、そして問題が発生した場合にはその是正措置を講じることを求められます。
これにより、企業は単なる法令遵守にとどまらず、持続可能な社会の実現に向けた積極的に取り組むことが期待されます。
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CSDDDの主な内容
欧州サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)の目的は、企業がバリューチェーン全体にわたる人権および環境への負の影響を特定し、防止、軽減、是正するための枠組みを確立することです。
適応内の会社は具体的に以下の対応が求められます。
① DD の企業方針及びリスク管理システムへの組込
② 現実的・潜在的な負の影響の特定と評価
③ 潜在的な負の影響の防止、現実的な負の影響の停止・最小化
④ 現実的な負の影響に係る苦情処理メカニズムの構築及びステークホルダーとの有意義なエンゲー
ジメント
⑤ DD 実施方針及び手続の効果に係るモニタリング
⑥ DD 結果の公表
対応項目 | 概要 |
1. 企業方針とリスク管理システムへのデューデリジェンスの統合 | 企業方針に人権や環境リスクを明記し、全社的なリスク管理システムに組み込むこと。持続可能性をビジネス戦略の中心に据え、企業文化として浸透させることが求められる。 |
2. 負の影響の特定、評価、優先順位付け | 自社およびバリューチェーン全体にわたる潜在的・現実的なリスクを評価し、そのリスクの深刻度や発生可能性に基づいて対応の優先順位を設定すること。特に高リスクの分野に迅速な対応が求められる。 |
3. 負の影響の防止、軽減、停止、是正 | 発見された負の影響に対して、防止、軽減、是正のための行動計画を策定し実行すること。取引先との契約条件を見直し、持続可能な調達と生産を目指す。中小企業のサプライヤーに対してサポートを提供する場合もある。 |
4. 通知制度及び苦情手続きの確立・維持 | ステークホルダーが影響を受けた場合に、苦情を訴えることができる透明で公正な苦情処理メカニズムを構築し維持すること。苦情の内容に基づいてリスク評価を見直し、速やかに是正措置を講じる必要がある。 |
5. DDの実施状況のモニタリング | デューデリジェンスの実施状況を定期的にモニタリングし、事業活動やバリューチェーンの変化に柔軟に対応すること。リスク管理の有効性を維持し、年次報告書にて外部に公表する。 |
6. DD結果の公表 | リスク評価のプロセスや、実施した是正措置の結果を詳細に公表すること。年次報告書に含め、企業の持続可能性へのコミットメントを外部に示し、透明性を確保する。 |
①DDの会社の方針及びリスク管理システムへの組込
企業は、デューデリジェンスに関する方針を単に策定するだけでなく、これを会社全体のリスク管理システムに統合し、サステナビリティをコアビジネス戦略に位置付ける必要があります。
これは、サステナビリティの目標が会社の中核に組み込まれることで、単なる規制遵守を超えて、企業の経営方針として持続可能性を積極的に推進する姿勢が求められています。従業員の意識改革や教育を通じて、企業文化の一部として浸透させることが重要です。
②潜在的・現実的な負の影響の評価・優先順位付け
企業は、バリューチェーン全体における潜在的・現実的なリスクを詳細に評価し、それに基づいて優先順位をつける必要があります。
このリスク評価は、単に自社の活動に限らず、サプライヤーや取引先を含む広範な範囲にわたり実施され、リスクの深刻度や発生可能性に応じて対応の優先順位を決定します。特に高いリスクがある分野への対策が急務であり、リスクベースのアプローチをし、効率的かつ効果的な管理が求められます。
③負の影響の防止・軽減・停止・是正
企業が負の影響を発見した場合、迅速にそれを防止・軽減・是正するための具体的な行動計画を策定し、実行することが義務付けられます。
これには、取引先との契約における保証の取得や、購買プロセスの再評価が含まれ、持続可能な調達と生産に向けた新たな基準が設定されます。必要に応じて、中小企業のサプライヤーに対してサポートを提供し、サステナビリティ基準の達成を促すことも重要です。
④通知制度及び苦情手続きの確立・維持
企業は、サプライチェーン上のステークホルダーが直接影響を受けた場合に、透明で公正な苦情手続きを通じて訴えを起こすことができる制度を整備する必要があります。
この制度は、従業員やコミュニティを含む関係者がアクセスしやすく、透明性の高いものでなければなりません。苦情の内容は企業のリスク評価に反映され、必要に応じて速やかに是正措置を講じることが求められます。
⑤DDの実施状況のモニタリング
デューデリジェンスの実施状況は定期的にモニタリングされ、リスクの変化や新たな課題に対応するために継続的な見直しが求められます。
企業は、事業活動やバリューチェーン上の変化に応じて柔軟に対応することで、リスク管理の有効性を維持します。さらに、年次報告書の中でこれらの取り組みを外部に公表することにより、企業の透明性を高め、ステークホルダーとの信頼を築きます。
⑥報告・公表
企業は、CSDDDに基づいて実施されたデューデリジェンスの結を、年次報告書に含めて公開する必要があります。
報告には、リスク評価の過程、取組み内容、是正措置の実施状況の詳細を含めましょう。適切に情報公開を行うことで、企業の持続可能性に対するコミットメントを外部に示す重要な手段ともなります。
対象企業と適用時期
CSDDDは、EU域内外の企業に適用され、その規模や市場での影響力に応じて段階的に適用時期が異なります。企業は、自社がこの指令の対象となるかを確認し、必要な準備を進めることが求められます。
次に、CSDDDの対象企業と適用時期について解説します。
EU企業
EU域内に拠点を持つ企業で、従業員数が1,000人以上、年間純売上高が4億5,000万ユーロを超える企業がCSDDDの対象となります。
つまり、大手企業が優先的に規制を受けるため、大手企業から対応策を早急に講じる必要があります。また、最終親会社も対象とされるため、関連するグループ全体で対応が求められます。
EU域外企業
EU域外の企業であっても、EU市場における年間売上高が4億5,000万ユーロを超える場合には、同様にCSDDDが適用されます。
これは、グローバルな企業がEU市場での事業展開にあたって持続可能性への対応を求められることを意味しており、日本企業においても、EUとの取引がある場合にはバリューチェーン全体での対応が必要です。
CSDDDの適用時期
CSDDDの適用時期は企業規模に応じて異なり、段階的に適用されます。指令の発効後 2 年以内に、各 EU 加盟国が対応する国内法を制定することとされており、当該国内法の施行後、正式に法令上の効力を有することとなります。
大規模な企業に対しては、最も早く2027年から適用が開始される見込みです。従業員数や売上高に応じた時間的猶予が設けられていますが、早期に準備を整えることが重要です。
EU企業 | EU域外企業(第三国企業) | |
発効から3年後 | 従業員数平均5,000人超および年間純売上高15億ユーロ超 | EU市場における年間純売上高15億ユーロ超 |
発効から4年後 | 従業員数平均3,000人超および年間純売上高9億ユーロ超 | EU市場における年間純売上高9億ユーロ超 |
発効から5年後 | 上記以外 | 上記以外 |
日本企業に求められる対応の手順
日本企業にとって、CSDDDの適用は、単なるリスク管理にとどまらず、サステナビリティ推進のための戦略的な対応が求められます。
特に、EU域内で事業を展開している日本企業や、EU企業のサプライチェーンに関与している企業は事前に何をすべきか理解しておくことが必要でしょう。
次に、日本企業に求められる対応を4つのステップ別に解説します。
①自社が適用企業となる可能性があるか確認する
最初に行うべきことは、自社がCSDDDの適用対象となるかどうかを確認することです。たとえ日本に本社を置く企業であっても、EU市場での年間売上高が4億5,000万ユーロを超える場合、あるいはEU域内に子会社や取引がある場合は、指令の対象となります。
まずは自社の売上や事業規模を確認し、CSDDDが適用されるか判断するために、詳細なビジネススコープと取引データのレビューを実施しましょう。
②自社が取るべき対応についての情報把握
次に重要なのは、CSDDDに基づくデューデリジェンスの詳細を把握することです。これには、バリューチェーン全体における人権および環境への負の影響を評価し、それに対するリスク管理体制を強化することが求められます。
具体的には、上流・下流のサプライチェーンにおけるリスクの特定や、ステークホルダーとの対話を通じてリスクマッピングを行うことが求められます。企業内部でCSDDDに精通したチームや外部の専門家を活用することで、対応策を詳細に検討することが可能です。
③自社の現在のDD体制と求められるCSDDDとのギャップを確認、対応計画を建てる
自社の現在のデューデリジェンス体制とCSDDDが求める基準との間にあるギャップを明確にし、それに基づいて対応策を立案することが重要です。
多くの日本企業では、CSRやサステナビリティの取り組みは行われていますが、CSDDDの基準に適合しているかを確認している企業は多くありません。例えば、環境リスクだけでなく、人権リスクにも焦点を当てた評価基準を持ち、優先順位付けを行うリスクマネジメントの導入が必須です。
④適用時期に備えて順次準備を行う
CSDDDは段階的に適用が開始されるため、企業はこのタイムラインに従って対応を進める必要があります。特に、2027年までに適用が開始される企業は、すでに準備を進める必要があるでしょう。
具体的には、社内のデータ収集プロセスを見直し、透明性の高い報告体制を構築することが重要です。段階的に対応計画を策定し、年次報告書の作成やリスク評価の更新を行うことで、企業の持続可能性と法令遵守の両立を目指します。
まとめ
欧州サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)は、企業が持続可能性を推進するための法的枠組みです。
CSDDDは今後、企業のサステナビリティ推進における大きな変化をもたらします。特に日本企業にとっては、欧州市場への参入やサプライチェーンの関与を通じて、デューデリジェンスの強化や持続可能なビジネスモデルの確立が重要になります。
参考文献
[1]アンダーソン・毛利・友常法律事務所「欧州コーポレート・サステナビリティ・デュー・デリジェンス指令の採択」
https://www.amt-law.com/asset/pdf/bulletins5_pdf/240516.pdf
[2]EY「欧州サステナビリティ・デューデリジェンス指令の採択 本指令のポイントと日本企業への留意点」
https://www.ey.com/ja_jp/climate-change-sustainability-services/business-and-human-rights-advisory-service/the-eus-cs3d-corporate-due-diligence-rules-agreed-to-safeguard-human-rights-and-environment
[3]東京海上ディーアール株式会社「企業持続可能性デュー・デリジェンス指令(CSDDD)の成立による人権・環境分野のデュー・デリジェンス義務化について①」https://www.tokio-dr.jp/publication/column/132.html
[4]長島・大野・常松法律事務所 危機管理・コンプライアンスニュースレター2024年6月No.91「欧州の企業持続可能性DD指令(CSDDD)の正式採択と日本企業に与える影響」https://www.noandt.com/wp-content/uploads/2024/06/compliance_no91_2.pdf
[5]NISHIMURA&ASAHI 企業法務/ヨーロッパニューズレター2024年5月14日号「サステナビリティ経営の戦略法務第 2 回 – EU の企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)案のアップ デート(1) -」https://www.nishimura.com/sites/default/files/newsletters/file/corporate_europe_240514_ja.pdf
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